管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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前言撤回になりますが、「I trust You」の番外編です。
理一郎サイドの話ではありますが、時系列的には最も過去の話とプチ未来な話になってます。
本編には絡まない話なので安心して読めるかも。
ネタバレになりそうな単語なども極力排除してみました。
理一郎サイドの話ではありますが、時系列的には最も過去の話とプチ未来な話になってます。
本編には絡まない話なので安心して読めるかも。
ネタバレになりそうな単語なども極力排除してみました。
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ああ、今日が土曜日か日曜日だったらよかったのに。
理一郎は会社のデスクの上にある卓上カレンダーを憎々しげに睨んだ。
こんなことなら始業開始とともに営業に出るべきだった。
しかし報告書と見積書などの書類作成をせねばならない。締め切りは明日なのだ。
しょうがないとため息をついてノートパソコンを開いて仕事を始めた。
「あのう~、瀬川さん」
「なんでしょうか」
傍らに立った女性社員二人に目もくれずにキーボードを叩き始める。
「これ受け取ってもらえますか?」
チラリと目をやると女性社員たちの手にはキラキラした可愛らしいラッピングの包みがある。
本日はバレンタインデーだ。
「ああ、ありがとうございます」
まったく抑揚のない淡々とした声で答えた。
デスクの下からガサリと音を立てて紙袋をひっぱりだす。
「すいませんけど、ここに入れておいてもらえますか。それと、ホワイトデーのお返しは期待しないでください。ご覧のとおり数が多すぎるし、記名されてない方へはお返しできませんし、その他の方へのみお返ししては不公平ですから。それでもよければいただきます」
そこまで喋っておいてクルリと椅子ごと回転して、ようやく女性社員たちに向き直る。
「もう一つよろしいですか。今は業務中です。こういうことは始業前か昼の休憩時間か、終業後にしていただけるとありがたいのですが」
「ごっ、ごめんなさい…、あの、私たちは受け取っていただけるだけでいいですからっ」
サッと紙袋の中へ包みを入れると彼女たちは営業部から出て行った。
「……瀬川、言いすぎだろう」
苦笑いを浮かべて浅岡雄治(あさおかゆうじ)主任が諭すように言った。
「期待されても困りますから、あえて突き放すように言ったほうがいいんです」
「さすが、慣れてるねえ」
理一郎の向かい側から佐野康太(さのこうた)が揶揄する。
「それにしても羨ましい。何、この数。まだ九時すぎだぞ」
同期の同僚である支倉貴之(はせくらたかゆき)が横から覗き込んだ。
「断るほうが面倒くさいんだ」
どうして受け取ってくれないんだ。これは義理だ。本命しか受け取らないのか。本命は誰だと話が発展していくに違いないのだ。
本命だろうと義理だろうと受け取るが、返事やホワイトデーのお返しは期待するなと言った上でもらったほうが楽なのだ。
それでも勘違いして期待するものも出てくるが、前もって言っておくべきなのだ。
「高校まではそうでもなかったのに……」
共学である大学に進んだ途端、周りの女子学生たちがチョコレートを持って群がってきたのだ。
チョコレート以外にプレゼントまでつけられたものはさすがに断ってきたが、社会人になってもこれでは困る。
「結婚でもすればいいのかなあ」
思わずポツリと呟くと、営業部内の女性社員の視線がすかさず向けられた。
その視線に鳥肌がたった支倉は首をすくめた。
「おいおい、そう簡単に言うなよ」
「瀬川くん、結婚したって女の子はそう変わらないと思うぞ」
「そうだよー。奥さんいたってこれは義理だものとか言っちゃうんだぜ。イベント好きだからなー、女の子は」
「大体だな、今現在、本命だっていないんだろう? どこの誰と結婚するっていうんだ?」
浅岡の言うとおりだ。
社会人となってからはやはり家や会社の将来のことを考えると結婚に関しては慎重になってしまう。
両親や祖父母は「好きな人と一緒になるのが一番」と言ってくれているが、その「好きな人」すらいないのだからどうしようもない。
「そういえばさあ、瀬川の好みのタイプってどんなコよ?」
話の流れから思い浮かんだのだろう。支倉が何気に訊ねてきた。
「どんなって言われても……」
理一郎は椅子の背もたれに体重を預けながら腕組みした。
特に好みなんてないような気もする。
思わず考え込んでしまった理一郎だが、そのとき周囲は固唾を呑んで次の言葉を待っていることに気づいていない。
「あ」
そういえば、と一つだけ思いついた。
「なんだよ?」
「いや、これは言わない」
「えー、教えてくれよ」
「嫌ですよ……俺はね、相手に俺の好みに合わせて欲しくないんです。だから誰にも教えませんよ」
好みのタイプに合わせようとしたらその人がその人でなくなってしまう。好きになった人にはそのままでいてほしいと思うのだ。
「いってらっしゃい、理一郎さん」
バレンタインデー当日、桜子は理一郎を玄関まで見送りについてきた。
「じゃあ行ってくる」
頬に軽くキスをしてドアノブに手をかけたところで妻が呼び止めた。
「あ、理一郎さん、あのね、今日はバレンタインデーなんだけど……」
「ああ、今日は早めに帰ってくるよ。チョコレートケーキ作ってくれるんだろう?」
「ええ、それはそうなんだけど……」
桜子は手を握り合わせてもじもじしながら言いにくそうに俯いた。
珍しく言いよどんでいるようだ。
「どうかしたのか?」
「拓海くんに聞いたんだけど」
「拓海? 拓海が何か言ったのか?」
どうしてそこで弟の名が出てくるのだ。
おもしろくないと思いつつも聞いてみる。
「理一郎さんはバレンタインデーにはチョコレートをたくさんもらってくるって聞いたの」
「あ、ああ……今年はもらわない。桜子が俺にくれればいいから」
「もうっ、そうじゃないの!」
「はい?」
唇を尖らせて見上げてくる小柄な妻は一段高いところにいながらも上目遣いになる。
「チョコレートをくださる方はわざわざ用意されてるのよ? ありがたくいただかないとダメじゃないのっ」
「あ、そうですか」
思わず敬語になってしまう。
「ちゃんとお礼を言って受け取って、お名前も聞いてきてね。ホワイトデーにはお返ししないといけないでしょう? そんなに立派なものは用意できないとは思うけど」
「わかりました」
「でも、でもねっ……?」
「うん?」
「本命だっていうものは受け取らないでね? その人には申し訳ないと思うのだけど、受け取らないでほしいの」
ちょっとしたヤキモチが見え隠れして思わず顔がにやけてくる。
「わかりました。奥様の言う通りにいたしましょう」
もう一度いってきますと言って、今度はしっかりと唇を重ね合わせた。
「どうしたんだ、今年の瀬川は……」
来年には課長に昇格するかもしれないという浅岡は出勤早々に予想外のものを見て気味悪そうに言った。
「奥さんに言われたらしいんですよ。アレ」
会社内ではめったに笑わない理一郎がにっこりと微笑んで礼を言ってチョコレートを受け取り、「これは義理でいいですか? 企画部の本山さんでしたね」といちいち名前を付箋に書いてチョコレートに貼り付けていっている。
「ホワイトデーにはちゃんとお返しをするべきだということらしいです。ただし、用意するのは奥さんだそうですがね」
「なるほどな」
「ちなみに、本命は受け取ってはダメだそうで」
「そりゃそうだろう」
「いや~、それが瀬川くんのツボをついたらしくて、嬉々としてやってるんですよ、アレ」
あの外見の可愛らしい奥さんに言われたら言うことを聞いてしまいたくなるだろうと思うのは浅岡のみの感想ではないはずだ。
「いいよな~、家に帰ったら奥さんお手製のチョコレートケーキが待ってるらしいんですよ」
支倉は羨ましそうに言った。
「そりゃあ羨ましいかぎりだな」
浅岡はそうは言ったものの、ドアの向こうの廊下のざわめきが気になった。
今日は仕事にならないかもしれない―――
ああ、今日が土曜日か日曜日だったらよかったのに。
理一郎は会社のデスクの上にある卓上カレンダーを憎々しげに睨んだ。
こんなことなら始業開始とともに営業に出るべきだった。
しかし報告書と見積書などの書類作成をせねばならない。締め切りは明日なのだ。
しょうがないとため息をついてノートパソコンを開いて仕事を始めた。
「あのう~、瀬川さん」
「なんでしょうか」
傍らに立った女性社員二人に目もくれずにキーボードを叩き始める。
「これ受け取ってもらえますか?」
チラリと目をやると女性社員たちの手にはキラキラした可愛らしいラッピングの包みがある。
本日はバレンタインデーだ。
「ああ、ありがとうございます」
まったく抑揚のない淡々とした声で答えた。
デスクの下からガサリと音を立てて紙袋をひっぱりだす。
「すいませんけど、ここに入れておいてもらえますか。それと、ホワイトデーのお返しは期待しないでください。ご覧のとおり数が多すぎるし、記名されてない方へはお返しできませんし、その他の方へのみお返ししては不公平ですから。それでもよければいただきます」
そこまで喋っておいてクルリと椅子ごと回転して、ようやく女性社員たちに向き直る。
「もう一つよろしいですか。今は業務中です。こういうことは始業前か昼の休憩時間か、終業後にしていただけるとありがたいのですが」
「ごっ、ごめんなさい…、あの、私たちは受け取っていただけるだけでいいですからっ」
サッと紙袋の中へ包みを入れると彼女たちは営業部から出て行った。
「……瀬川、言いすぎだろう」
苦笑いを浮かべて浅岡雄治(あさおかゆうじ)主任が諭すように言った。
「期待されても困りますから、あえて突き放すように言ったほうがいいんです」
「さすが、慣れてるねえ」
理一郎の向かい側から佐野康太(さのこうた)が揶揄する。
「それにしても羨ましい。何、この数。まだ九時すぎだぞ」
同期の同僚である支倉貴之(はせくらたかゆき)が横から覗き込んだ。
「断るほうが面倒くさいんだ」
どうして受け取ってくれないんだ。これは義理だ。本命しか受け取らないのか。本命は誰だと話が発展していくに違いないのだ。
本命だろうと義理だろうと受け取るが、返事やホワイトデーのお返しは期待するなと言った上でもらったほうが楽なのだ。
それでも勘違いして期待するものも出てくるが、前もって言っておくべきなのだ。
「高校まではそうでもなかったのに……」
共学である大学に進んだ途端、周りの女子学生たちがチョコレートを持って群がってきたのだ。
チョコレート以外にプレゼントまでつけられたものはさすがに断ってきたが、社会人になってもこれでは困る。
「結婚でもすればいいのかなあ」
思わずポツリと呟くと、営業部内の女性社員の視線がすかさず向けられた。
その視線に鳥肌がたった支倉は首をすくめた。
「おいおい、そう簡単に言うなよ」
「瀬川くん、結婚したって女の子はそう変わらないと思うぞ」
「そうだよー。奥さんいたってこれは義理だものとか言っちゃうんだぜ。イベント好きだからなー、女の子は」
「大体だな、今現在、本命だっていないんだろう? どこの誰と結婚するっていうんだ?」
浅岡の言うとおりだ。
社会人となってからはやはり家や会社の将来のことを考えると結婚に関しては慎重になってしまう。
両親や祖父母は「好きな人と一緒になるのが一番」と言ってくれているが、その「好きな人」すらいないのだからどうしようもない。
「そういえばさあ、瀬川の好みのタイプってどんなコよ?」
話の流れから思い浮かんだのだろう。支倉が何気に訊ねてきた。
「どんなって言われても……」
理一郎は椅子の背もたれに体重を預けながら腕組みした。
特に好みなんてないような気もする。
思わず考え込んでしまった理一郎だが、そのとき周囲は固唾を呑んで次の言葉を待っていることに気づいていない。
「あ」
そういえば、と一つだけ思いついた。
「なんだよ?」
「いや、これは言わない」
「えー、教えてくれよ」
「嫌ですよ……俺はね、相手に俺の好みに合わせて欲しくないんです。だから誰にも教えませんよ」
好みのタイプに合わせようとしたらその人がその人でなくなってしまう。好きになった人にはそのままでいてほしいと思うのだ。
「いってらっしゃい、理一郎さん」
バレンタインデー当日、桜子は理一郎を玄関まで見送りについてきた。
「じゃあ行ってくる」
頬に軽くキスをしてドアノブに手をかけたところで妻が呼び止めた。
「あ、理一郎さん、あのね、今日はバレンタインデーなんだけど……」
「ああ、今日は早めに帰ってくるよ。チョコレートケーキ作ってくれるんだろう?」
「ええ、それはそうなんだけど……」
桜子は手を握り合わせてもじもじしながら言いにくそうに俯いた。
珍しく言いよどんでいるようだ。
「どうかしたのか?」
「拓海くんに聞いたんだけど」
「拓海? 拓海が何か言ったのか?」
どうしてそこで弟の名が出てくるのだ。
おもしろくないと思いつつも聞いてみる。
「理一郎さんはバレンタインデーにはチョコレートをたくさんもらってくるって聞いたの」
「あ、ああ……今年はもらわない。桜子が俺にくれればいいから」
「もうっ、そうじゃないの!」
「はい?」
唇を尖らせて見上げてくる小柄な妻は一段高いところにいながらも上目遣いになる。
「チョコレートをくださる方はわざわざ用意されてるのよ? ありがたくいただかないとダメじゃないのっ」
「あ、そうですか」
思わず敬語になってしまう。
「ちゃんとお礼を言って受け取って、お名前も聞いてきてね。ホワイトデーにはお返ししないといけないでしょう? そんなに立派なものは用意できないとは思うけど」
「わかりました」
「でも、でもねっ……?」
「うん?」
「本命だっていうものは受け取らないでね? その人には申し訳ないと思うのだけど、受け取らないでほしいの」
ちょっとしたヤキモチが見え隠れして思わず顔がにやけてくる。
「わかりました。奥様の言う通りにいたしましょう」
もう一度いってきますと言って、今度はしっかりと唇を重ね合わせた。
「どうしたんだ、今年の瀬川は……」
来年には課長に昇格するかもしれないという浅岡は出勤早々に予想外のものを見て気味悪そうに言った。
「奥さんに言われたらしいんですよ。アレ」
会社内ではめったに笑わない理一郎がにっこりと微笑んで礼を言ってチョコレートを受け取り、「これは義理でいいですか? 企画部の本山さんでしたね」といちいち名前を付箋に書いてチョコレートに貼り付けていっている。
「ホワイトデーにはちゃんとお返しをするべきだということらしいです。ただし、用意するのは奥さんだそうですがね」
「なるほどな」
「ちなみに、本命は受け取ってはダメだそうで」
「そりゃそうだろう」
「いや~、それが瀬川くんのツボをついたらしくて、嬉々としてやってるんですよ、アレ」
あの外見の可愛らしい奥さんに言われたら言うことを聞いてしまいたくなるだろうと思うのは浅岡のみの感想ではないはずだ。
「いいよな~、家に帰ったら奥さんお手製のチョコレートケーキが待ってるらしいんですよ」
支倉は羨ましそうに言った。
「そりゃあ羨ましいかぎりだな」
浅岡はそうは言ったものの、ドアの向こうの廊下のざわめきが気になった。
今日は仕事にならないかもしれない―――
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