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ひとめさんは帰省してるはずなのになんで!?
と思っている人もいらっしゃるでしょうが、ホントに帰省してます。
これは予約投稿ですよ~。
12月30日に書き込んでます。
何も更新しないのもどうよと思ったので、再録ではありますがUPしておこうと思います。
「テニスの王子様」の未来リョ桜です。
わかってる人はわかってるでしょうが、思いっきり捏造ですから。
【Interview~家族計画Ver.~】
オレは緊張していた。
今日は就職してから初めての取材で都内のあるテニスクラブに来ている。
オレが入社したのは「月刊プロテニス」の編集部。第一希望で採用されただけに、気合も入りまくりだ。
だけど、入社してから三ヶ月は仮採用の研修期間で、ようやく本採用となっても中々取材には同行させてもらえなかった。
編集部内で使い走りばかりして腐りかけてたところへ、ようやくお声がかかったわけだ。
といっても、オレ一人でなんて当然行かせてもらえない。
同行、というのでもなくて、オレがお供についていくという形だ。
オレがお供についていくのは、副編集長の井上さんだ。
井上さんは編集部でも大ベテランで、編集長の次に古株なんだ。
普通なら副編集長が取材になんて出かけないんだろうけど、今回は特別。
というのも取材相手が、井上さんならとOKを出してくれたからだ。
それを最初に聞いたときには、「なんて偉そうなヤツなんだ」と思ったんだけど、井上さんの話では自分が行くと他社の取材よりも多くいろんなことを喋ってくれるからなんだって。
聞けば中学生のころからのつきあいだとか。そんなに昔から雑誌に取り上げられるほどに有名な選手なんだと思っていたら、有名も有名。オレが憧れていた選手だったんだ。
「やあ、リョーマくん。久しぶりだね」
「ども。お久しぶりです」
一面のみをフェンスで囲まれたテニスコートに入り、井上さんが帽子をかぶった選手のほうへ声をかける。
ラケットを持って近づいてくるその人は、いまだに「日本テニス界のプリンス」と言われる越前リョーマ選手だ。
長身で細身に見えるのに、なぜか逞しいという印象を与える不思議な人だと思った。
「今日は井上さんが取材っすか?」
越前選手はオレたちに断って、ベンチに座るとスポーツタオルとドリンクを取り出す。
涼しげな顔をしているから気づかなかったけど、びっしょりとと汗をかいていて、ウェアが肌にはりついていた。一体何時間練習しているんだろう?
「最近はなかなか外に出してもらえなくてね。だけど、せっかく君がすぐに取材に来れる場所にいるんだから僕が行かなくちゃと思ってね。それと、ウチの新人を紹介しておこうと思ったんだよ」
井上さんはそう言ってオレを紹介してくれる。
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしく」
越前選手はオレをチラリと見ると、軽く会釈をした。
「今年大学を出たばかりなんだよ」
「へぇ」
井上さんに相槌をうつ越前選手は、オレよりも五歳以上年上だ。それなのに同い年くらいにしか見えない。
「もう練習は終わりかい?」
「いや…取材始めたいんだったら、終わらせるっすよ」
「ああ、それならいいんだ。練習中の写真を撮らせてもらおうと思って早めに来ただけだから、君の予定通りにしてくれて構わないよ。もちろん、写真は撮っても構わないよね?」
「それならいいっすよ」
越前選手はそういうと練習相手(このテニスクラブのコーチだ)に声をかけると再びコートに戻った。
そしてしばらくの間、オレが写真を撮りながら井上さんがいろいろと話をしてくれた。
その間も井上さんはメモをとりつづける。
「うん、技術は伸びてるな。体のキレもよくなってる。年齢的にはそろそろ引退じゃないかと言われるけど、全然そんなところは見えないな」
井上さんはそこで言葉を切ると、不意にクスクスと笑い出した。
「思い出すなぁ…初めて会ったころは、本当に小さくて、オレの胸のあたりに頭があったんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そのころの同年齢の子たちと比べると平均的な身長だったんだが、なにしろ、他の選手のほとんどが上の学年で身長も高くてね。ずいぶんと小さく見えたものさ。それが今じゃ、オレよりも大きいんだからな」
炎天下でオレたちは立ちっぱなしで越前選手の練習を見ていた。もちろん、オレたちが立っているところは屋根がついていて、日陰になっている。だけど、越前選手は暑い中を動き回っている。
「はー…暑くないんですかね?」
「何言ってるんだ。テニスの試合なんてヘタしたら何時間にもなるときがあるんだ。これくらいの暑さで倒れるような鍛え方はしてないんだぞ。おまえだって、テニス部だったならわかるだろう?」
「わ、わかってますよ」
怒られてしまって、オレは首をすくめた。
だってオレがテニス部だったのは中学と高校だけだ。しかも中学のときは軟式で硬式を始めたのは高校に入ってからだった。おまけにオレの所属していたころのテニス部はあまり強くなくて、いつも地区大会で敗退しているようなところだったから練習だってそんなに厳しくなかったんだ。
だけど、井上さんがそんなことを知るわけがないから、怒られるのはオレの知識が足りないせいだと思うことにする。
「越前選手って、テニスで有名な青春学園の出身なんですよね。今でも都大会ベスト4常連の」
「ああ、東京は強豪校が多いからなかなか都大会を突破できない。だけど、彼がいた三年間は毎年全国大会に出場していたよ。本当に青学の柱というべき選手だった」
「それが今では世界のトッププレイヤーの一人ですか」
その後、練習を終えた越前選手とオレたちはクラブハウスへ移動した。
先にシャワーを浴びる越前選手を待つために、オレたちは喫茶室へ移動する。
そこは冷房がきいていて、ずいぶんと涼しかった。
「すいません。随分と待ってもらって」
大きなラケットバッグを肩にかついだ越前選手は普段着に着替えていた。
ラフな格好をしているし、別にブランドものの服を身につけているわけじゃない。
それなのに、なんだかモデルみたいだ。
「いやいや、それじゃ早速始めさせてもらおうかな」
「当たり前のことを聞くようだけど、次の大会への意気込みを聞かせてもらえるかい?」
「そうっすね。これも当たり前のことだけど、やるからにはナンバーワンを目指しますよ」
「それじゃ、注目しているというか、要注意だと思う選手は?」
「対戦する選手…というよりは、参加する選手全員っすね。次に誰にあたるかは試合が終わってみないとわかんないでしょ」
とりあえず、最初は次の大会に関することの質問だった。
次からプライベートに関する質問だ。越前選手のこの手の話は他社のテニス雑誌では極端に少ないらしくて、井上さんが取材をするときはこっちの話のほうが多いという話もある。
それが越前選手ファンの間では「月刊プロテニス」が一番購読者が多いと言われる理由だ。
「確かそろそろ君の長男は小学校入学じゃなかった?」
「来年には小学校っすよ」
「えっ」
思わず声をあげてしまったオレは、井上さんと越前選手の両方から注目されてしまった。
「す、すいません…。あの、大きなお子さんがいらっしゃるとは思わなかったので…」
オレが頭を下げると、越前選手はため息をつく。
「よく言われるんだよね。『お子さんがいらっしゃるんですか。とてもそうは見えません』って」
「君って所帯臭さを感じさせないし、若く見えるからじゃないかい?…おまえもよく覚えておけよ。これでもリョーマくんは二人の子持ちだぞ」
井上さんはオレに向けて言った。
「えっ、そうなんですか?」
「まあね」
越前選手はそう言って微かに笑って肩をすくめた。
へぇ、本当に井上さん相手だといろいろと喋ってくれるみたいだ。
それからもいろいろな話をした。
もうここまでくるとインタビューというよりは、ただの世間話みたいになってくる。
それじゃそろそろ時間だからと切り上げようとしていたところで、越前選手が窓の外を見て手を振った。
「どうしたんだい?……おっ、あれは」
越前選手につられて窓の外を見た井上さんも声をあげる。
それでオレもなんだろうと外を見た。
そこにはよちよち歩きの女の子と幼稚園の服を着た男の子を両手に繋いだ女性がいた。
越前選手はこいこいというように手招きする。
「おい、おまえ運がいいぞ。リョーマくんの愛妻登場だ」
「愛妻って…言ってて恥ずかしくないっすか?」
井上さんの言葉に越前選手は少し呆れたように言った。
ほどなく喫茶室に姿を見せた女性の第一印象は『可愛くて綺麗なお母さん』といった感じだった。
色白でほっそりとしていて、スタイル抜群で、優しそうな人だ。
「あっ、井上さん、お久しぶりです」
「やあ、桜乃ちゃん、久しぶりだね。子どもたちも大きくなったなぁ」
「カズくん、アヤちゃん、こんにちはって挨拶しなさい」
「こんにちは」
「にちわぁ」
男の子はきちんと頭を下げ、その男の子を見ていた女の子は真似をするように頭を下げる。
「はい、こんにちは。えらいなぁ、ちゃんと挨拶できるんだ」
「ウチは礼儀関係は厳しいっすよ」
椅子に座ったままの越前選手は女の子を手招きする。
「パパァ」
「ここまで歩いてきたのか」
そう言って抱き上げる姿はいかにも『おとうさん』という姿だった。
今までは世界のトッププレイヤーだったのが、一瞬でどこにでもいる普通の家庭の父親に変わった。
「ごめんなさい。駐車場にリョーマくんの車があったから、まだいるのかなって見にきてみたの。取材中だとは知らなくて…」
「いいんだよ。ちょうどそろそろ終わろうかと言ってたところだったんだ。…ああ、よかったらジュースでも飲むかい?」
子どもたちに聞くと、二人とも顔をほころばせる。だけど、越前選手は無情にも言った。
「井上さん、悪いっすけどジュースはやめてください。こいつら一昨日アイスの食いすぎで昨日はずっと腹が痛いって寝込んでたんすから」
「あー…そうなのか、それじゃやめておいたほうがいいなぁ」
「すみません。井上さん」
奥さんもすまなそうに頭を下げる。
「いやいや、いいんだよ」
「あ、それじゃ、これなら平気かな」
オレはカバンの中に入れてあったクッキーの小袋を一つずつ手渡した。
「家に帰ってから食べるといいよ」
「用意いいな、おまえ」
「いや、腹が減ったら食べようと思ってたんですよ」
すると、男の子がペコリと頭を下げた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「ありあとー」
「まあ、ありがとうございます」
「え、いや、ええと、どういたしまして、かな?」
奥さんにまでお礼を言われて、照れくさくなって頭をかいた。
そこで、カタンと越前さんが立ち上がる。
「それじゃ、今日はこれくらいでいいっすか?」
「あ、そうだね。せっかく桜乃ちゃんもいるんだから、もう少し取材したいところだけど、そろそろ夕飯の時間だ。桜乃ちゃんも帰って夕飯の仕度があるんだろうし、またの機会にしようかな」
駐車場まで出ると、ひときわ大きなRV車に越前選手たちは乗り込む。
後部座席にはチャイルドシートが二つ取り付けられていた。
「リョーマくん、今日はどうもありがとう。また次の取材も頼むよ」
越前選手は運転席の窓を開けて顔を出して苦笑した。
「井上さんの頼みじゃ断れないっすね。…それとアンタ」
「あ、はいっ」
越前選手がこっちを見た!
「子どもたちにクッキー、サンキュ。また来るといいよ」
「あ、は、はいっ。今日はお疲れさまでした」
そして越前選手一家は車で去っていった。
見送ったオレたちも車に乗り込む。
「おまえ、気に入られたらしいな」
「へっ、何でですか?」
「また来いって言われただろ。あれは取材許可がおりたってことだ」
「えっ、そうなんですか!?」
「ああ、リョーマくんは気難しいところがあってね。ウチの取材でも、他社の取材でも気に入らないヤツが行くとろくに話もしないんだそうだ」
オレの運転する車は大通りに出て、編集部へ帰るために帰路をたどる。
「でも、それじゃ取材にならないんじゃ…」
「いや、リョーマくんはあれで律儀というか真面目なところがあるから、一応取材には応じるんだけど、質問以上のことは絶対に話さないらしい。オレは噂でしか聞かないからわからないけどな」
それじゃ今日の越前選手は本当によく喋ってたんだ。
そんな越前選手を取材できる井上さんも本当にすごいと思う。
「副編集長って本当にすごいんですね。そんな越前選手がいろんなこと喋ってくれてたじゃないですか。しかも奥さんともお知り合いなんですか?」
「ああ、桜乃ちゃんも中学生のころから知り合いだからな」
「え?一体、どういう関係なんですか?」
「ん~…まあなんというか。他社のヤツらには絶対に話すなよ」
井上さんはそう言ってオレには教えてくれた。
「桜乃ちゃんはリョーマくんと同い年で、青春学園中等部出身なんだ。彼女のおばあさんが当時の男子テニス部の監督でね。リョーマくんはその監督の教え子だったんだよ。だから、桜乃ちゃんともそのころからよく顔をあわせてたから、本当に昔からの知り合いなんだ」
「へぇ、そうなんですか」
オレは相槌をうちながらも井上さんの言葉を頭の中で反芻した。言葉を噛み砕きながらよく考える。
そして思わず大声をあげる。
「ええっ!それじゃ、越前選手って、奥さんとは中学のころから付き合ってて、そのままゴールインしちゃったってことですか!」
「い、いや、そのあたりまで詳しいことは知らない。少なくとも中学のころは付き合ってなかったとは思うけど」
「そうだったのかぁ…」
「おい、聞いてるのか?」
井上さんが何か言ってたみたいだけど、その時オレはほとんど聞いてなかったような気がする。
「やれやれ…だけどな、気をつけろよ。桜乃ちゃん…奥さんの話題は極力出さないようにしろ。オレは安全だと思われてるからいいんだけど、奥さんのことを話題に出したり、興味あるようなことを言ったら、そこで取材はシャットアウトになるぞ」
「へっ、どうしてですか?」
「リョーマくんは愛妻家だって言っただろ?桜乃ちゃんに近づく男は許さないから、取材のときは気をつけろ。せっかく気に入られたのに、それくらいのことで疎まれたらもったいないだろ」
「わっ、わかりました。気をつけます…」
い、意外なことを聞いてしまった。
憧れているというか大ファンのテニスプレイヤーがヤキモチ焼きの愛妻家だったとは。
たとえ、世界的に有名な選手でも家に帰れば徒の人ということがよくわかったような日だった。