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管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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実は二ヶ月くらい前から書いていた「そして花嫁は恋を知る」の二次創作SSがようやく仕上がりました。

長いよ(汗)
いや、私のSSとしては普通の長さだけど。
もっと短く仕上がる予定だったんだけどなぁ。

「嫁恋」シリーズをご存知の方なら読んでいただけても話がわかるかも。
時期としては、「紅の砂漠をわたる姫」の後日談のような感じです。
ご存知ない方が読んでも……わかるかな(汗)

ただ、うちに来てSSを読まれた方はそこから興味もって原作を読んでくださる人も多いので、読んでみるだけはタダじゃないかと(笑)

続きからどうぞ~。

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~「紅の砂漠をわたる姫」より~



 
 
 夜闇が空を完全に支配した頃、川を挟んだ王都の向かい側に建つ離宮のバルコニーに一人の青年の姿があった。
 オーク色の肌と艶やかな黒髪はネプティス人の典型的な特徴だったが、煌くような紅い瞳はネプティス王家の血を引くもののみが持つ特徴だ。
 その紅の瞳は王家から遠縁になるほど赤みは薄れてくるが、彼の瞳はまるで紅玉をはめこんだような色であった。
 青年は王家直系の証であるその瞳で向こう岸に見えるマリディの街に灯る篝火を眺めていた。
「陛下」
 薄絹の帳をくぐって侍従が現れ、頭を垂れた。
「何かお飲み物をお持ちいたしましょうか」
「ああ、そうだな。果物を搾ったものがいい」
「かしこまりました」
「待て。王妃はどうしている?」
「王妃様でしたらご自分のお部屋にいらっしゃると思います。まだお休みにはなられていないと思いますが……」
 お呼びいたしましょうかという侍従に断り、王妃の分の飲み物も一緒に持ってくるように言ってからネプティス王国の新王ナティールは王妃の部屋に向かった。
 
 臨時の王宮とはいえ、離宮の主はナティールだ。この離宮内で彼が入ることのできない場所などない。
 王妃の部屋の出入り口にいる衛兵も彼が通るときは黙って頭を下げるだけだ。
 大帝国ブラーナの皇女である王妃はその身分にもかかわらず、生活態度は実に質素で慎ましいと評判だ。
 それに加えて誰に対しても分け隔てなく接する優しい心根に、王宮で働く者たちには概ね好意的に受け入れられ、彼女を王妃としたナティールはひとまず胸をなでおろしたところだ。
「王妃」
 入るぞと一声かけて居間にあたる部屋の帳をくぐる。
「ユスティニア?」
 そっと声をかけたが応えはなく、当の部屋の主は長椅子の上で転寝をしていた。
 規則正しい寝息が聞こえ、起こす気にもなれず傍に腰をかける。
 頬にかかっていた黄金色の髪を軽くはらうと一房ほどつまんで指に絡ませた。
 今は眠っているため見れないが、金色の睫に縁取られた瞼を開けると青い瞳が現れる。
 それは純粋なネプティス人にはない色だ。
 初めて彼女の姿を目にしたとき、父の仇と憎み続けていた男と全く同じ色合いに、まさしくあの男の娘だと直感した。
 最初こそ彼女自身に対しても憎悪という感情しか抱かなかったが、憎いからといって殺したいとまでは思っていなかった。
 そのユスティニアに対する感情が決定的に変わったのは、人質であったはずの彼女が父親に見捨てられたときだった。
 その前に訊いていた事情からしても、ある意味では彼女も被害者のようなものだったのだろう。
 庶子である彼女がもしもクレイオス皇子に娘だと認められなかったら、今でもアルカディウスの街で普通に暮らしていたのかもしれない。
 それなのに無理矢理にこんなところまで来させられ、あまつさえ反乱軍の人質にまでなっている。彼女がそんな目にあわなければならないような罪を犯したわけでもなかっただろうに。
 だからというわけではなかったが、彼女をどうにかして助けられないかとも考えた。彼女が望むようにアルカディウスに帰してやりたいとさえ思ったのだ。
 それなのに、彼女ときたら逃げられる機会をふいにして怪我をしたナティールを助けようと総督府に乗り込もうとしたり、あの王宮に水が流れ込んできたときも自分を見捨てろなどと言うなんて、とんだお人よしだ。
 しかし、そんな彼女だからこそ惹かれてしまったのかもしれない。
 
 シェラム王が殺され、このまま自分が王宮へ戻らなければまた遠縁から新たな王が選ばれたのだろう。
 しかし、ナティールは正統な王位継承者としてもう二度と国を放りだすことはできなかった。
 ブラーナの言いなりになって傀儡の王となって一生を過ごすか、それとも融和政策をとりながらも国力を蓄え、自治権を取り戻すために尽力するか。
 ナティールの答えは一つしかなかった。
 今のネプティスには剣を持ってブラーナと戦う戦力など皆無に等しい。
 ならば今はブラーナに従属し、いずれは自治権を認めさせるしかない。
 だがそれは自分の代では終らないかもしれない。
 それでもナティールには希望があった。
 それが目の前にいる少女だ。
 ユスティニアは亡くなったクレイオス皇子の言葉もあり、それを聞いていた幾人かが間違いなくネプティス王家に嫁ぐためにやってきた姫だと証言したため、ナティールの王妃にと求められた。
 クレイオス皇子が亡くなった今、無駄にブラーナを怒らせるよりは、このままクレイオス皇子の娘である皇女を王妃として迎えて機嫌をとるほうが良策だったのだ。
 
 初めはそんなことを考えず、アルカディウスに帰そうと思っていた。あのどさくさで亡くなったといって理由をつけて逃げさせることもできたのだが、ナティールはどうしてもできなかった。
 彼女がいなくなれば、またアルカディウスから違う姫が送り込まれてくるかもしれない。事実、ユスティニアが攫われたとき、代わりの皇女が出てきたではないか。
 ブラーナがネプティス王家をのっとるかもしくは傀儡の王を据えるなら、皇室から王妃を送り出し、次の代の王を生ませるのが一番無難で手っ取り早い方法だからだ。
 それがわかっていたからこそ、どうせブラーナの皇女を王妃に娶らなければならないのなら、ユスティニアがいいと思ったのだ。
 しかし、本人の気持ちもある。無理矢理に王妃とするのは気が乗らなかったが、彼女は王妃としてナティールのそばに残った。
 
 何故、彼女は自分のそばに残ってくれたのだろうか。
 不思議に思っていたのだが、アルカディウスに帰さなかったことに罪悪感を感じて訊けなかった。
 そんなある日のことだった。
 ユスティニアは「あなたがいればどこでもいい」と言ってくれた。
 ナティールがいるところならばどこにでも行くと、ずっとそばにいると彼女は言ったのだ。
 そのときに彼女を守っていこう、大切にしようと決めたのだった。
 
 ナティールが黄金色の髪を弄っている間もユスティニアは気持ち良さそうに眠っていた。
 何故だろうかと時々思うことがある。
 憎み続けていた男の娘なのに、彼女に対しては正反対の気持ちが湧きあがる。
 こうして眠っている姿を見るだけで安心する。
 自然と笑みが浮かぶ。
 触れたいと、抱きしめたいと思うのは何故なのだろうか。
 ナティールの肌とは全く違う白い肌はとても柔らかそうだ。
 そっと手を伸ばして触れようとしたとき、帳の向こうから声がかかった。
「陛下、お飲み物をお持ちいたしました」
「あ、ああ、入れ」
 王妃の私室だからか用事を言いつけた侍従ではなく、ユスティニア付きの侍女が飲み物が入ったゴブレットと壺を盆に載せて入ってきた。
 別の椅子に移動しようかと立ち上がりかけたのだが、ここで移動するのもおかしいかと考えて座りなおした。二人は夫婦なのだから同じ椅子に腰掛けていたっておかしいことはない。
「王妃様は……?」
「眠っているだけだ。問題ない。起きたら飲むだろうからそのまま置いておけ」
 侍女は言われたとおりに卓に盆ごと置くと、恭しく頭を下げて出て行った。
 それと同時にユスティニアが小さく身じろぎをして瞼を開けた。
「ん………やだ、寝ちゃった……? ……あら、ナティール?」
 目を瞬かせながら起き上がったユスティニアはぼんやりした目をしていた。
「起こしてくれればいいのに……」
 寝起きだからか少し不機嫌そうな声に苦笑してゴブレットを差し出す。
「せっかく寝ているんだから起こすのも悪いかと思ったんだ。これを飲め、すっきりするぞ」
「あ、ありがとう」
 侍従が持ってきたのはオレンジを絞ったものだった。
 ユスティニアはそれを飲み干すと一息つく。
「今日は街へ出かけていたらしいな」
「ええ、薬草は売ってないかと思って」
 ユスティニアはアルカディウスでは祖父の跡をついで薬師をしていたという。
 薬草や病気、怪我の治療については王宮に勤めているものよりもよほど詳しく、ナティールも世話になったことがある。
 ネプティスでは医者や薬師というものになじみがない。もちろん、王宮などの政治中枢では医者もいたりするが、民間では病気や怪我の場合は神に祈ったり、呪術師によるまじないで治すものだと考えられている。
 そんなもので病気や怪我が治るのならば苦労はしない。
 ユスティニアを見ていてナティールは考えた。
 ネプティス人の医者や薬師を増やすことはできないかと。そしてそれを学ばせるためにブラーナから医者を招くことを先日会議で提案したところだ。
「街の人たちに訊いてみたりはするのだけど、私がブラーナ人だってわかったら怖がられてしまって」
「そうか……」
 肌の色はともかく、ユスティニアの髪や目の色がもう少し濃い色であればそこまで警戒心を抱かせないかもしれないが、とにかく彼女の髪や目は目立つ。
 マリディは陽射しが強いこともあって、ユスティニアが外出するときは頭から陽射しを遮るものを被って出かけてはいるらしいのだが、間近で話をすればどうしてもわかってしまう。
 おまけに彼女は王妃だから一人で出歩かせるわけにはいかない。警護の人間がいればそれだけでも警戒心を抱かせてしまうだろう。
「薬草は乾燥していてもいいんだな?」
「ええ、種類にもよるのだけど」
「ではそういうものはダマグラムから取り寄せられないか訊いてみる」
「ダマグラムから?」
「ああ、実はちょっと考えたことがあるんだ」
 ナティールはネプ河を使って、王都マリディと港湾都市ダマグラム、そこからアルカディウスまでをつなぐ航路をつくり、荷の運搬や人の行き来を便利にすることができないかと考えついた。
「ダマグラムはブラーナだけじゃなく、他国の船も出入りする港町だ。物資の売買を自由化する条件で港の使用料や通行料を税という形で徴収すればその金でさらに港を大きくすることもできるし、ネプ河の整備をすることもできる。これならブラーナが欲しがっていたネプティス産の穀物もずっと早く安くブラーナまで送ることができると思わないか?」
「もしかして、それをずっと考えていたの?」
「ああ、おまえも知っているように、紅砂砂漠を抜けるのはつらいからな。もっと早く確実に荷を運べて、人が砂漠を通らずにマリディに入る方法がないかと考えていた。船なら大きいものを用意すればたくさんの荷を運べるだろう?ただ、それを実行するには時間と金と人手がかかるがな」
「でも……いいことだと思うわ」
 ユスティニアはナティールの手を励ますように握った。
「それが実現したら、みんなとっても楽になると思うわ。あんな苦しい思いをして砂漠を抜けなくてもよくなるし、ネプティスの人たちの仕事も増えるんでしょう?」
 働く場所がないと生活に困る。
 市井育ちのユスティニアはそれがよくわかっている。
 ネプティスの王妃として民たちのことを考えているわけではないだろうが、人々の暮らしをより良くしたいと思っているのはナティールと同じだ。
「ああ、だから頑張らないとな」
 ユスティニアのほっそりとした手を握りかえすと青い瞳を見つめる。
 優しい色だ。
 アルカディウスは海に面した街だというが、そこから見える海は彼女の瞳と同じ色をしているのだろうか。
 空いているほうの手を延ばして象牙色した頬に触れると、触れた部分が熱をもった。
「ユスティニア」
「あ」
 見つめられたまま視線をはずすことができず、ユスティニアは頬をあからめた。
「ナティール?」
「……あ、いや」
 先に視線を逸らしたのはナティールだった。
 せわしなく視線をさまよわせ、結局ユスティニアから手を離す。
「あの、ナティー…」
「もう遅い」
 そう言って立ち上がると部屋を出て行こうと居間の帳に手をかけた。
「あ、あの」
「おやすみ」
 微かに笑みを浮かべてそういうとユスティニアも同じように微笑んで「おやすみなさい」と言った。
 その微笑みがほんの少しだけホッとしたようでもあり、がっかりしたようにも見えた。
 それでいて、口調はちょっと怒っているようにも聞こえたのは気のせいか。
 衛兵に見送られて王妃の部屋を出ると、その向かい側にある自分の寝室に入ってすぐ脇の壁に額を押し付けた。
「何をやっているんだ。俺は」
 今日こそ言うつもりだった。「今日はここで寝る」と。
 自分の寝室に呼んでもいいのだが、目的があからさまにわかってしまうとユスティニアが来ないのではないかと思ったのだ。
 ナティールの即位と結婚式を終えても二人はまだ寝室を共にしたことがなかった。
 単にナティールが忙しすぎてユスティニアの一人寝が続いただけだったのだが、ようやく総督府との交渉ごともまとまり、情勢が安定してみると、特に不仲なようには見えないのに寝室を共にしない国王夫婦に近侍たちは不安を隠しきれないでいた。
 ナティールはブラーナの侵攻を受けたときにルシアン教に改宗させられている。ルシアン教は一夫一婦制で、愛妾を持つことを許してはいない。つまりは次代の王は王妃に生んでもらわないと困るのだ。
『世継ぎを儲けることも国王の仕事』
 というのは十分承知している。
 国王夫妻はまだ若いということもあり、重臣たちはナティールに遠まわしに言うだけに留めているようだが、一応その務めを果たさなければならないだろう。
 
 だが王妃――ユスティニアはどう思っているのだろうか。
 ナティールの子どもを生んでもいいと思っているだろうか。
 
 ナティールはユスティニアを大切に思っているので無体なことはしたくなかった。ただでさえ無理矢理に遠い異国の地へ連れてこられたのだ。
 本当の意味での彼女の味方は今は自分しかいない。
 だからこそ、無理強いをして嫌われたくなかったのだ。
 
 しかし、子を生すことは国王としての義務だ。
 
 ナティールは顔をあげると扉を開けて廊下に出た。
「陛下?」
 先ほど自室に戻ったはずの王がすぐに出てきたので衛兵は首を傾げた。
「忘れ物をしただけだ」
 ナティールはそう言って再び王妃の部屋に足を踏み入れた。
 居間に続く帳をくぐると侍女が卓の上にあった壺とゴブレットを片づけようとしていたところだった。
「陛下」
「王妃は?」
 部屋をぐるりと見回すがあの目立つ金髪が見当たらない。
「王妃様はお休みになられるとおっしゃって、今お着替えに…」
「そうか」
「あの、陛下」
 侍女の答えを聞き終えないうちにナティールはユスティニアの寝室がある部屋の帳に手をかけた。
「ここはもういいから下がれ。火の始末はしておけ」
「は、はい、かしこまりました」
 侍女は持ち上げようとしていた盆を卓の上に置くと、壁際の灯りを消しに向かった。
 ナティールが王妃の寝室に入るとユスティニアは着替えを終えたところだった。装飾品をすべてはずし、肌触りのよさそうな簡素な寝間着を身につけている。
「ナティー……あ、陛下!? どうしたの、いきなり」
 すでに着替えを終えていたとはいえ、訪問も告げずに入ってくれば驚くに決まっている。
 ユスティニアは咎めるような声で言った。
 だがナティールはあえて無視してユスティニアが今まで着ていた部屋着を手に持っていた侍女に向けて言った。
「もういいから下がれ。ご苦労だった」
 王にそう言われては退出するしかない。元からそのつもりだっただろうが、侍女は王と王妃を交互にみやってから慌てて頭を下げて出て行った。
「あっ………」
 呆然とした顔で侍女を見送ったユスティニアはナティールを見上げた。
「ナティール…どうしたの? 忘れ物でもしたの?」
「……ああ、言い忘れたことがあった。……今日は、ここで寝る」
「……えっ……」
 ユスティニアは最初何を言われたのかわからないようだった。だが、瞬きを繰り返すと顔をふせ、胸元でぎゅっと手を握りしめる。
「嫌だというのなら何もしない。ただ…皆が気にする。何故、寝室が別々なのかと」
「わ…私、そんなつもりじゃ……だって、ナティールがっ……ナティールが別々のほうがいいのかと思って……だから……」
 女の口から言えるわけないじゃないとユスティニアは拗ねたように言った。寝室の微かな明かりでもユスティニアの色白の頬が赤くなっているのがわかる。
 表情には出なかったが緊張のために早鐘を打っていたナティールの胸が一際大きな音をたてた。
「……嫌ではないんだな?」
 確かめるように問うと、ユスティニアははっきりと頷いた。
 強張っていた体からどっと力が抜けていく。
 ナティールはユスティニアのほっそりとした体を抱き寄せた。
 するとユスティニアは自分から身を預けるようにナティールに寄り添ってきた。
 見下ろす瞳と見上げる瞳が自然に閉じて唇が触れ合った。
 何度か触れ合うだけの口づけをかわすとユスティニアの手がナティールの頬に触れた。
「だって決めたんだもの。ずっとそばにいるって」
 頬に触れている小さくて温かな手をとり、その手のひらに口づける。
 
「ああ、ずっとそばにいろ」
 
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