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というわけで、ずいぶんと前なのですが「テニスの王子様」関係で某御方のリョ桜本にゲスト参加させていただいたときの原稿が出てきたので公開してみます。
もう何年も経っているので大丈夫でしょう。
サイトのSSは読んだことあっても、同人誌のほうは読んだことないって人もいらっしゃると思うので。
特にこれは私が発行したものではないですしね。
SSは続きからですよ。
未来リョ桜です。
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【ライバル宣言】
そのことに最初に気づいたのは桜乃だった。
海外遠征から久しぶりに帰国し、まとまった休みがとれたのでしっかり家族サービスでもしようかと旅行の計画をたてていたのだが、桜乃が「のんびりしたいんだったら、家にいるのが一番だよ」と言った。
そうではなくて、自分は桜乃や一人息子のためにどこか遊びに連れていってやりたかったのだが。
「リョーマくんの気持ちは嬉しいけど、どこかに出かけると逆に疲れちゃうよ。私はリョーマくんのお世話をしたいんだけどな」
と言われたので、桜乃の希望にあわせてみるのもいいかと思った。
そこでよちよち歩きの長男を連れて、近所のスーパーに買い物に出かけた。
いつもならベビーカーに子どもを乗せて行くらしいのだが、今日はリョーマがいるからとあえて歩かせてみることにする。
「あるくのー!カズくん、あるく!」
ずいぶんと言葉が達者になってきた一人息子は、リョーマが抱き上げようとするとじたばたと動いて落っこちそうになるので仕方なく下に降ろす。
「手をつないでいればちゃんと歩くから。疲れたときだけ抱っこしてあげて」
いつも一緒にいる桜乃はわかっているようで、息子に手を伸ばすと小さな手が指をにぎる。
「カズくん、お父さんのおててもつないであげてね」
「はーい」
長男一真は小さな手を伸ばしてリョーマの中指の先を握った。
ふわふわとやわらかい子どもらしい手の柔らかさに軽く目を瞠る。
小さな手はリョーマの指先を握るだけでも精一杯の大きさだ。
だが、それが愛らしいと思う。
桜乃に対する気持ちとはまた違った愛しさを感じるのは確かだ。
「おとーさん、あのね、カズくんね…」
桜乃の言葉がうつってしまったのか、自分のことをカズくんという息子は久しぶりに家に帰ってきた父親にかまってもらいたくてしきりに話しかける。
大きくなったらきっと自分のように父親にかまわれるのを嫌がるようになるのだろうなと思うので、こうして甘えてくれる間だけでもかまってやろうと思う。
素直なのは今だけだろうから。
リョーマは少しだけ身をかがめて息子に相槌をうつ。疲れる体勢ではあるが背の高い父親と話すために顔をあげたままの一真のほうが辛いかもしれない。
それでも一真は笑顔を絶やさず、両親を交互に見ては覚えたての言葉を話す。
スーパーに着くと桜乃はカゴを持った。
「リョーマくん、カズくんをお願いね」
「りょーかい」
一真はすでにキョロキョロと周りを見ている。
いつも桜乃と一緒に来ているスーパーなので慣れているはずなのだが、何か目新しいものが見つかったのかそちらへ行こうとするのでリョーマは慌てて小さな頭に軽く手を添えて引き寄せる。
「カズ、勝手に行くんじゃない」
「はぁい」
父親に軽く睨まれて一真は首をすくめた。
その間も桜乃は野菜や果物をカゴに入れていく。
「ねぇ、リョーマくん、今晩はおさかなにしようと思うんだけど、いい?」
「うん」
何がいいかと選んでいる桜乃の隣に立って、パックに入った魚を見る。
「何にするつもり?」
「う~ん、カズくんがいるから、白身魚のムニエルがいいかな?ね、カズくんも好き…カズくん?」
振り返るとすぐそばにいた一真がいなかった。
「カズ?一真!?」
リョーマは慌てて周囲を見回すが、小さな子どもの姿は見当たらなかった。
「ったく…どこ行ったんだか…」
「う~ん、たぶんお菓子のところじゃないかな?」
さすがに桜乃はいつも一緒に来ているだけに、息子の行動はお見通しのようだ。
リョーマは小さく息を吐くとくるりと体の向きを変えた。
「連れてくる」
リョーマは探しに行こうととりあえずお菓子売り場に向かった。
「どこ行ったんだ?」
お菓子売り場に行ってみると、そこには子どもが数人はいたものの、自分の息子の姿はなかった。
声を出して呼ぶわけにもいかず、リョーマは地道に順番に売り場を見て歩く。
このままだと自分が桜乃を見失いそうだなと思っていると、いきなりズボンがひっぱられた。
「おとーさん?どこいくの?」
「カズ」
大きな目を見開いて一真が見上げていた。
ホッとしたリョーマは息子を抱き上げる。
「勝手にどこかへ行ったらダメだって行っただろう?」
メッ、と叱ってみるのだが一真はごめんなさいとは言ったものの、あまり効果はないようだ。
ここでこっぴどく叱るわけにもいかないので、とりあえず無事に見つかったのだからいいかと思って桜乃を探すことにする。
「おかあさんはどこに行ったんだろうな?」
リョーマが独り言のようにつぶやくと一真が指差した。
「あっちだよ」
「え?」
指差す方向に思わず目を向ける。
「おかーさんはあっちだよ」
「…カズ、いままでおかあさんと一緒にいたのか?」
「ううん」
首を振る一真はあっちあっちと指をさす。
その方向は確実に動いていて、リョーマは一真の指さす方向へ歩いていくと、桜乃の姿が見えた。
「リョーマくん、カズくん」
ちょうどレジの前で鉢合わせて、そこでようやく気づいた。
腕の中にいる息子をまじまじと見る。
「カズ…?」
「おかーさんみつけたよ。カズくんえらい?」
自慢げな一真に、リョーマは「ああ」と頷くしかなかった。
帰り道。
来たときと同じように三人で手をつないで歩く。もちろんリョーマが車道側で、空いた手には買い物袋をさげている。
「私もね、最初は驚いたんだよ」
桜乃の話では、家にいても一真の反応は早い。
リョーマが家に入ってくるときなど、気配も感じないのにいつの間にか玄関に向かっていることがある。
リョーマはそれがたまたまなのだろうと思っていたが、実はそうではないらしい。
今日のようにスーパーに買い物に行ったときもそうだ。
最初は迷子になったと思って慌てて探していると、いつの間にかひょっこりと現れて桜乃の後ろをついてくるのだ。
「カズくんて、勘がいいんじゃないかなぁ。ほら、小さい子って勘が鋭いっていうじゃない?カズくんはそれがもっと鋭くなってるのかも」
「第六感ってやつ?」
「うん、そう」
桜乃は頷くが、それは家族というか両親限定らしい。越前や竜崎の祖父母たちがやってくることには気づかないらしいのだ。
「それは便利というか不便というか…。それにしても」
「うん?」
「やっぱりそういうのに気づくのは桜乃が先だよね」
「そりゃ一緒にいるのは長いもの」
「……」
「あれ?リョーマくん、ヤキモチ?」
どっちに?
「どっちにだろ?」
独り言のようにつぶやくと、桜乃がクスリと笑う。
「私もね、最初は悔しかったんだよ。どうしてカズくんが先に気づいちゃうのー!って。でもね、それって当然なのかもね」
両親の力を借りながらも懸命に歩く一真を愛しげに見下ろす。
「だって、リョーマくんの分身なんだもんね」
「それを言うなら」
桜乃の言葉を受けてリョーマが続ける。
「桜乃の分身でもあるってことだろ」
「うん、そうだよね」
桜乃は嬉しそうに笑った。
その笑顔に惹かれるように、リョーマは妻の頬に軽く口づけた。
途端に桜乃の頬が桜色に染まる。
「も、もうっ、こんなところで何するの?」
「いいじゃん。別に誰も見てないし」
住宅街に入っていたので車も通らず、少なくともリョーマが気づくような距離に人の姿はなかった。
「ほっぺたなんだから気にすることないだろ?」
「カズくんも…」
「え?」
桜乃とリョーマが下を見下ろすと、一真が大きな目を見開いてじいっと見上げていた。
柔らかそうなほっぺたがぷうっと膨らむ。
「カズくんも!」
抱っこしてくれとリョーマに小さな手を伸ばす。
桜乃と顔を見合わせたリョーマはお互いに吹き出す。
「ほら一真」
リョーマが片手で抱き上げると、一真は母親に手を伸ばして抱きつくようにして頬に唇を押しつける。
「ありがとう、カズくん」
「へへ…おとーさんも!」
「ん?」
一真は抱き上げられたまま父親の頬にも唇を押しつけた。
「カズ…」
リョーマは半分照れ隠しに言った。
「そういうことは、好きな人にするんだぞ」
「カズくんね、おとーさん大好きだからいいの!」
「あ、そ」
傍らで桜乃がクスクスと笑う。
それをチロリと睨むと一真はさらに続けていった。
「でもね、おかーさんはもっと好き!」
「…ふーん、そう」
微妙に声のトーンが下がったような気がして、桜乃は心の中で息子に対抗意識燃やしても仕方ないだろうにと思ったのだが、次のリョーマの言葉に吹き出すのだった。
「桜乃、オレたちライバルだから」
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未来リョ桜のオリキャラ一真(かずま)くんです。
リョーマと桜乃ちゃんの長男になります。