忍者ブログ
管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

いくつかは書きあがっているのですが、やっぱり支部には上げづらい。
いや、別にいかがわしい話とかではない。
なんかな~、若い方たちが多いから、なんとなく気が引ける。

そんなわけで、ブログで自己満足に浸るのである。

ブログにあげたSSは時系列は繋がってないし、全部別時間枠というわけで。
というのが、同じ時期ごろの話とか重なってるので、似たような話が少しかぶってる感じになってるので、あえて別々の話ってことで。

今回のSSは時期的にはEp.6終章前くらいかな。


拍手


===========================================



 
 
 
 リュストカマー基地は初夏の陽気に包まれ、雲はあちこちに浮かんでいるけれども青い部分が多く見えて概ね晴れの天気といえる。
 レーナはグレーテの執務室から出ると窓の外を眺めた。
 こうしてみると、連合王国の気候はやはり異常だったのだと思う。
 開け放たれた窓からは、爽やかな空気が入り込んでくる。
 これが本来のこの時期の風なのだろう。
「レーナ」
 不意に声をかけられて驚くが、振り返ると思わず顔がほころぶ。
「シン」
 足音も立てずに近づいてきたのは、レーナが指揮する機動打撃群第一機甲グループの戦隊総隊長である。
「報告書を持ってきたのですが」
「はい、お疲れ様です」
 レーナは手を差し出すが、シンが勤務服のブレザーを着ておらず、ブラウスの袖を肘のあたりまで腕まくりしていることに気づく。
 細かい傷が多くついた、それでいて筋張って血管の浮いたレーナのものよりも太い腕にドキリとしながら報告書を受け取る。
 頬が微かに赤くなるのを誤魔化すように、もう一度窓の外を見やった。
 公の場でもないし、おそらくオフィスで報告書の作成をしていたのだろうから、服装についてとやかく言うつもりもない。
「今日は少し暑いですね」
「ええ、連合王国から戻ってきたときは違和感ありましたが、こちらが本来の気温ですからね」
「シンはもう体調は大丈夫ですか?」
 連合王国では戦闘終了後に熱中症になっていたシンだ。
「さすがにもうなんともありませんよ。心配性すぎませんか、レーナ?」
「それはシンが無茶ばかりするからです」
 苦笑するシンにレーナは唇を尖らせる。
「貴女の下に帰るためなら、無茶だってします」
「シン……」
 柔らかな、それでいて決然とした眼差し。
 シンは変わったと思う。それもいい方向へ。
 それがたった一つの望みを叶えるためだけでもいい。
 レーナはそれが嬉しくて、同時にそわそわとした落ち着かない気分になる。
 帰還してきてから時々、宝石のような焔紅種の瞳が何かを求めてくるように自分に向けられると、ほんの少しだけこわくなって逃げだしたくなるのだ。
 不安だからではない。ずっと見つめて欲しいと思っているのに、いざとなるとなんだかこわい。
 そんな感じだ。
「あ、それじゃ報告書を確認しますね」
「はい、お願いします」
 血赤の瞳に見とれていたが、自分がやらなければいけないことを思い出し、執務室のドアを開けようとした。
 その時。
「これっ、待たぬか!」
 パタパタと軽い足音とともに、甲高い声が聞こえた。
「え?」
 レーナが振り向くと同時に、黒い塊がお腹のあたりに飛び込んでくる。
「あっ」
 軽い衝撃だったが体のバランスを失ってしまい、後ろにニ、三歩下がると、トン、と背中が壁に当たった。
「大丈夫ですか?」
 耳元で聞こえたそれに、びくんっ、とレーナの背筋が震える。耳朶の上あたりにホッとしたような、軽い吐息が触れた。
 当たったのは壁ではなく、程よく鍛えられたシンの胸板だった。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
 両肩を温かい手で支えられつつも、振り向いたらすぐそこにシンの端整な顔があるのがわかりきっているので、正面を向いたまま頬を赤くする。
「ティピー? いったいどうし…」
 いまだレーナのお腹にはりついている黒猫は、レーナの軍服に爪をひっかけてさらによじ登ってこようとする。
「ちょ、ちょっと、ティピー!」
 爪をたてられるとほつれてしまう。
 なんとか引きはがそうとしたのだが、爪が引っかかってしまっている。
 フレデリカがぎょっとして声をあげた。
「ヴラディレーナ! スカートがめくれてしまう!」
「っ! きゃあああっ」
 ティピーの後ろ足の爪がレーナのスカート部分をひっかけていたらしく、ベロンとめくれあがっていた。
 咄嗟にスカートの裾を押さえてペタンと床に座り込む。
 そのはずみに爪がとれたらしく、レーナの肩までよじ登ったティピーは勢いそのままに、その背後にいたシンの胸元に飛び込んだ。
「シンエイ、そのまま捕まえておれ! すまぬの、驚かせてしもうた」
 フレデリカが眉尻を下げて近づいてくる。
「え、ええ……それより……」
 レーナは床に座り込んだまま、シンを振り仰いだ。
 顔が真っ赤だ。
「……………見ました?」
「見てません。というか、見えてません」
 何をとは問わず、シンは首を横にふる。
 そもそもレーナのすぐ後ろにいたのだ。ティピーは見えたが、スカートなんて見えてもいない。
「おれは見てませんが……」
 前方、フレデリカのさらに数歩後ろにライデンが背中を向けて立っていた。
 その背中に向けて、シンの血赤の目が細められる。
「言っとくけど、俺も見てねーからな! 見えそうだったのは認めるが、とにかく見てねーから!」
「わらわも見えなんだから、大丈夫であろ」
「そ、そうですか……」
 よく考えてみればシンの位置から見えるはずもないのだ。そのことを恥ずかしく思いながら立ち上がる。
「ところで、どうしたのです? ティピーがなにかしましたか?」
「ん? その……ブラッシングをしてみたくての……」
 フレデリカは手にブラシを持ったまま、もじもじとレーナを見上げる。
「ティピーを招き寄せたまではいいんだが、ブラシをかけようとした途端、逃げ出したんだよ」
 顛末をライデンが説明する。どうやらフレデリカに付き合わされたようだ。
 ティピーは隊舎から出さないようにしているため、屋内をあちこち追いかけまわし、最終的には住処でもある最上階へと上がってきたということだ。
 そういうことか、とレーナは納得したが、フレデリカの持っているブラシに首を傾げる。
「ところで、そのブラシは?」
「わらわのじゃが……」
「それだとティピーの毛がついてしまいますよ。ブラッシング用のブラシがありますので、お貸ししますね………シン、ティピーを連れてきてもらえますか? できればわたしが報告書を確認している間、構っていてもらえると助かるのですけど」
「了解しました」
 ティピーが一番懐いているのは飼い主のレーナではなく、シンである。
 今もシンの腕に抱きかかえられてご機嫌なのか、喉をゴロゴロと鳴らしている。
 要するに、レーナがシンの報告書を確認している間にフレデリカにブラッシングをさせようというのである。
「んじゃ俺はお役御免だな。報告書が作りかけなんだよ。後で持ってくから」
 ライデンはヒラヒラと手を振って戻っていった。
 
 執務室に入ったレーナはさらに奥の寝室からブラシを持ってきた。
「どうぞ、フレデリカ。これでティピーをブラッシングしてあげてください」
「うむ」
 シンとフレデリカは執務室のソファに腰かける。
 珍しく相手をしてくれるのが嬉しいのか、ティピーはシンの膝の上で寝そべる。
「何ゆえにシンエイがよいのかのう。全く可愛がりもせんというのに」
 そう言いつつ、フレデリカは借りたブラシでティピーの毛を梳く。
「さあ?」
「猫はあまり構いすぎるのもよくないとは聞いたことがありますけど」
 カタン、と音がして、花の香りが鼻孔をくすぐる。
 見ればレーナが窓を開けていた。
 いつの間にか紺青のブレザーを脱いで、ブラウスのみになっている。
「あ、すみません。暑いので、窓、開けてもよかったですか?」
「ええ」
 レーナが動くたびにふわふわと菫の香りが届く。
 それでなくても部屋中がレーナの香りで満たされている気がするので、今更ながら非常に意識してしまう。
 執務机で早速報告書に目を通し始めたレーナを何とはなしに見つめた。
 白系種の白銀髪と白銀瞳は最も嫌いな色の組み合わせだと思っていたが、レーナのそれは綺麗だなと思う。
 伏せられたまつ毛までもが色の薄い銀で、ずいぶんと長いななどと思っていると、腕を小突かれた。
「みとれるのは構わぬがの、わらわはそろそろいくぞ」
 集中しているレーナを邪魔しないようにだろう。
 こそこそと耳打ちしてくるフレデリカは、シンにブラシを渡す。
「もういいのか?」
「うむ。ティピーも眠ってしまったようじゃし、満足した」
「そうか」
「そなたはヴラディレーナの報告書の確認が済むまで待っておれ。そのくらいは気を利かせねばの」
「?」
 フレデリカはできるだけ足音を立てずにドアに近づいて、そっと開く。
 そして出て行くときに、こちらを見てニヤリと笑ってから扉を閉めた。
 その意図するところに気付いたけれど、こんな真昼間の執務室でどうしろと。
 しかも相手は仕事中である。
 シンがため息をつくと、レーナが顔をあげた。
「はい、いいですよ、シン。お疲れ様でした……フレデリカは?」
 眠るティピーをソファの上に下ろしたシンは執務机に近寄る。
「ティピーが眠ってしまいましたし、満足したといって出て行きました」
「そうですか」
 
 窓際に立ったシンにつられて、レーナも近寄る。
 遠く離れた演習場では他の機甲グループが演習中なのか、砂埃が見えるのと同時に空砲の音が聞こえる。
「もうすっかり夏ですね」
「どこに行っても暑いですけどね」
 肩をすくめたシンにクスクスと笑いながらも、その襟元をチラリと見る。
 暑いと言いながらも決して緩められることのない襟とネクタイ。
 その下にわずかに見える傷痕のようなあざ。
 いつか、そのことについて話してもらえるほどに近づけたらと思う。
 と、そこまで考えたときにシンとの距離が実際に詰まっていることに気づく。
 先ほどよりもシンの体温が近くに感じる。
「今度の……」
「え」
 血赤の瞳が見下ろしていた。
 無意識に胸元で両手を握りしめる。
 そうしないと大きくなりはじめた胸の鼓動が相手に聞こえてしまいそうで。
「その」
 
 シンは口を開きかけたが、突然響いたノックの音と「失礼しまっす」と確認もせずにドアをあけたライデンを思いっきり睨みつける。
「返事を確認してからドアを開けろ」
「いや、中にいるのはわかってたし、フレデリカもいると思ってたから……邪魔したか?」
 室内を見回し、幼い少女の姿がないことに気づいたらしい。
 揶揄うような目線から逃れるように顔をそむけて外を見る。
 頭を掻きながら入ってきたライデンに慌てて近寄ったレーナは、報告書を受け取るために手を差し出す。
「それじゃ確認させてもらいますね。少し待っていただけますか」
「じゃあおれはこれで」
 用は済んだとばかりに執務室を出ようとしたのだが、ライデンに腕をとられる。
「なに」
「いいのか? 二人きりになるけど」
 何を言っているのか、これが初めてというわけではないだろうとライデンを見上げる。
 近くで話をすると、どうしても見上げる形になってしまうのでそれが腹立たしい。
 意味ありげにこちらを見るライデンの目が完全に揶揄うものになっている。
 小さく舌打ちをすると、自分をとらえる腕を振り払ってソファへと再び腰かけた。
 クックックと肩を震わせて笑うその背中を横目で睨む。
「ライデン? どうしましたか?」
「いーや、なんでもねえよ」
 先日の連合王国での戦闘では、途中から指揮権がライデンに委譲されたため、シンと同じくらいに報告書の量が多かった。
 レーナはすぐに目を通すと頷く。
「はい、いいですよ。お疲れ様でした、ライデン」
「おーし、これで出すべきもんは出したな」
 疲れた、とばかりにライデンは軽く体を伸ばす仕草をする。
「ふふふ、これでようやく休暇に入れますね。まだやるべきことは残ってますけど」
「最大の難関が報告書作成だから、あとは大したことねーよ。レーナはまだずいぶんと書類仕事が残ってんだろ」
「ええ、まあ、あと何日かは缶詰になりそうですけど」
「そうか」
 とライデンがシンをチラリと見ると、軽く頷いて腰を上げた。
 真面目なレーナが根を詰めてしまうのを避けるためにも気分転換は必要だ。
「レーナ、もう昼になります。食堂に行きませんか? 残りは休憩してからでもいいのでは?」
「そうですね」
 レーナは顔を輝かせると、席を立つ。
「ライデンも一緒に……」
「いや! 俺は後から行くわ。飯の前に終わらせときたいことがあるから」
「そうですか?」
 話をしながら執務室を出る。
 
 静かになった部屋では、黒猫がソファの上で気持ちよさそうに眠ったままだった。
 
 
PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]