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管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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「I trust You ~ Takumi & Mitsuka ~」の第二話です。
ホントにヒーローは第三話まで出てきませんので(汗)

ではつづきから。


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 篤朗(あつろう)と付き合い始めたのは、大学卒業後に新卒で採用された会社に新入社員として働き始めて二、三ヶ月したころだった。
 所属する課は違えども、あの頃は研修期間であちこちの課へ使い走りをさせられていて、資料室へ頼まれた資料を取りにいったときに彼と出会ったのだ。
 一年先輩だった篤朗は、少しおっとりとしたおぼっちゃん風の青年で、光佳が求めていた資料を一緒に探してくれたのだ。
 そのときの印象は、優しいし、真面目に仕事をしているんだなという程度だった。
 彼のほうは光佳が美人であることから印象が強く残ったのだろう。社内で顔を合わせると挨拶をしてくれるようになった。
 研修期間が終るころには、篤朗が社長の次男で女性社員たちから玉の輿の相手として見られていることも知った。そのころには次期社長である篤朗の兄は既婚者となっていて、対象外となっていたらしいことも。
 その後も社内では話をすることもあったが、個人的な誘いなどあるわけもなかった。
 転機が訪れたのは秋の社員旅行に行ったときだ。
 二泊三日の日程だったが、その二日目の午後は自由行動だったため、光佳は前々から行ってみたかった寺社巡りをしようと思っていた。
 同期入社の同僚たちにも一緒に行くか訊ねてみたのだが、彼女たちはお寺や神社などには興味がないらしく、甘味処を回るのだと言ったので強くは誘わなかった。
 実のところ、単独行動には慣れていたのでむしろそのほうが都合がよかったのだ。一応義理で訊ねてみただけのことだ。
 ただ、このころから付き合いが悪いと言われ始めたのだが。
 行ける範囲内の寺社を回っていると、あるところでバッタリと篤朗と出会ったのだ。彼のほうも一人だった。
 聞けば寺社めぐりが趣味なのだという。
 よそへ行こうと誘われたのだが興味がなかったので断って一人でのんびりと散策していたらしい。
 話をしてみると好きなものが共通していて、話が俄然盛り上がった。
 そのときからだ。
 時折、篤朗に誘われて出かけるようになったのは。
 街中へ買い物デートとかではなく、郊外へのドライブや日帰り旅行が多かった。
 
 いつの間にか社内でも二人が付き合っているという噂が広まり、いずれは結婚をという話にまで至った。
 結婚はともかくとして、光佳がどうしても譲れないことがあった。
 光佳は四人姉妹の長女で跡取り娘だったために、婿をとらねばならなかったのだ。
 もちろん、どうしても光佳が跡取りにならねばならないということはない。
 姉妹の誰か一人が坂崎家に残ればいいのだ。
 両親は無理にとは言わないと言っていたが、父が坂崎の名を残したいと思っていることを知っていた。
 というのも、父は一人息子で光佳の祖父母にあたる人たちも早くに他界していたので、近しい親戚がいない。母方の親戚は遠方に住んでいることもあり、めったに会うこともないのだ。
 お盆や彼岸の墓参りのときに、父が冗談めかして「嫁に行っても墓参りくらいはしてくれよ。掃除をしてくれるくらいでいいから」と言いながら墓の掃除をしているのを見て、坂崎の名がなくなることを寂しがっているのだと気づいた。
 光佳は父の気持ちに気づいたこともあり、自分は長女なのだから一緒に坂崎家を継いでくれる人を探そうと思っていた。
 そのことを篤朗に話すと、「自分は次男だし、兄がちゃんと跡を継いでくれるからうちは問題ない」と言ったのだ。
 だからプロポーズを受けたのに――――
 
 
 家に帰ると、両親に会社を辞めることを話した。
 母はそのほうがいいと頷いた。
「せっかくいいところで働かせてもらってたのにね……。でも、こんなことになったら会社にも行きづらいわよね。社内恋愛ってこういうときに困るのねぇ」
 父とは見合い結婚だった母の言葉に苦笑する。自分もそう思ったと。
 意外にも難色を示したのが父だった。
「結婚をやめたからというだけで、仕事まで辞めるのはどうなんだ? 別におまえが悪いわけじゃないだろう」
 と。
 確かにそのとおりだと光佳だって思ったが、社長から受けたセクハラのことを話すと顔色が変わった。
「なんだと!? そんな父親だったのか、あの親子はっ……!! 光佳、篤朗くんには悪いが、結婚はするなよ。万が一に結婚できたからといっても、嫁にまで手を出すかもしれん!」
「嫌だわ、そんなの……。お母さんもね、あなたが嫌な目にあってまで結婚なんてしてほしくないわ。まだ若いんだし、急がなくてもいいじゃない」
「うん、わかってる。でも、ごめんね? しばらく無職の家事手伝いになっちゃうけど」
「おまえのことだ。いつまでもフラフラしてないだろう。実家住まいなんだから問題ない」
「次のお仕事が見つかるまでに何か資格でもとってみたら? ほら、最近は通信教育とか、パソコン教室とかあるじゃない」
 両親の励ましの言葉に嬉しくなって泣きそうになった。
 
 三人の妹たちも結婚と仕事をやめたことには驚いたが、それぞれの言葉で励ました。
「いいんじゃない? だいたい、お姉ちゃんは真面目に考えすぎだよ! 少しくらいのんびりしたら? どうせすぐに『働かなきゃ!』とか言い出すんだから」
「あーよかったぁ。実はさ、あたし、あの人好みじゃないんだよね。なかなかのイケメンだし、嫌いじゃなかったけど、ナヨっとしたところがどうにも受け入れられないというか……。ごめん、お姉ちゃんが好きならいいかとは思ってたんだけど」
「いざとなったらあたしがお婿さんもらうからさ! でも……お姉ちゃんが出て行かなくてよかったぁ!」
 子どものころから面倒を見てくれた一番上の姉を慕っている妹たちは、なんにしてもまだ姉が家にいてくれることを喜んだのだった。
 
 
 退職願いを受理された後、引継ぎなどもあったので一ヵ月半後に退社した。
 辞めるまでの間、陰口を叩かれたり、問題も起きたりしたのだが、最終日に会社に残っていた私物を入れた紙袋を持って会社を出ると、妙に清清しい気持ちになった。
(そういえば、同僚に友達っていえるのは一人もいなかったな……)
 数少なくはあるが、高校時代からの友人はいる。
 けれど、社会人になって、同じ会社に勤める友人は一人もできなかった。
 誰かと仲良くなりたいとも思っていなかったけれど。
 大学時代もそうだったのだが、合コンに誘われることもなかった。
 光佳は街に出ればモデルにスカウトされるほどの容姿だったので、彼女が合コンに参加すると男性の目は全て彼女に向くと思われて敬遠されたのだ。
 飲み会といえば社内の忘年会や新年会、歓送迎会などの断ったらさすがにマズイだろうという場合だけ参加していた。それも一次会だけに。
 男性社員からは個人的に誘われることもあったけれど、それも篤朗と付き合う前のみだ。
 会社を辞めた今となっては仲良くならなくてよかったとさえ思う。
 円満退社ならともかく、社長親子や、同僚の悪口や批判から逃げるような形なのだから。
 逃げたいと思ったわけじゃない。
 我慢できなかっただけだ。
 けれどそれを「逃げた」と言われるのだろうが。
 
「さて、と」
 気分を変えるように軽く頭を振って駅へと向かう。
 明日から新しい就職のためにスキルアップを目指すのだ。
 
 
 
 翌年の春。
 光佳は新入社員たちがいるオリエンテーション会場である大会議室の横を通り過ぎた。
 奇しくも中途採用された時期が四月だったこともあり、総務部は慌しく動いているようだ。
「たまたまとはいっても、慌しくて申し訳ないね」
「いえ」
 総務部長じきじきに社内を案内され、光佳は恐縮しながらも愛想笑いを浮かべた。
「君のように資格やスキルを持っていてくれると、こちらの手間も省けて助かるよ。昨年末から人事異動とか退職する社員がいて、即戦力が欲しかったものだからね」
 中途採用試験の際に、採用担当の社員からチラリと聞いた話だが、昨年の秋、社長の弟で常務取締役にある人が事故で亡くなったのだという。雨の中、スリップした大型トラックに正面衝突されて車は大破して同乗していた常務の妻も即死だったのだと。
 そのために役員の異動にともなって、大幅な人事改革がなされた。おまけにこの五月には結婚退職する女性社員までいるという。そこで人員補充のために急遽社員募集をかけたのだ。
 新入社員が多く入るものの、彼らの教育期間が終るのを待っていたのでは遅い。
 即戦力となる人材を募集しろと社長と専務からの直々のお達しだった。
(よかった! お母さんの言うとおり、資格もとってパソコン教室にも通っておいて!)
 大学卒業時、現在の仕事に役立ちそうな資格を持ってなかったので、母の助言に従っておいてよかったと感謝する。
 
 光佳が採用されたこの会社――セガワ商事株式会社は中途採用の条件に資格所有者を明記していたのだ。急募だったこともあったからだろう。
 セガワ商事は地元でもなかなかの優良企業で、景気が低迷している現在でも業績を落としていない会社だ。おまけに前職場よりも会社の規模が大きい。
 そこに再就職が決まった際、高校時代からの友人に話すと羨ましがられた。
 なんでも男性社員にイケメンが多いらしい。
 そんなわけないだろう。ガセではないのかと言うと、本当だと憤慨された。
 友人は市内にある某ビジネスホテルで働いている。
 そのホテルが大掛かりな改装を行ったときに、オフィス家具や事務用品を扱っているセガワ商事が事務室の備品を納入するために営業担当者が何度か通ってきたらしいのだ。
 ホテルはかなりの上得意だったのか、営業担当は男性二人だった。
 その二人ともがかなりの美形だった。おまけに背も高く、部下らしき若い男性のほうは百八十センチを越えているようだったという。
 おしむらくは、既婚者だったみたいで左手の薬指には結婚指輪が嵌められていたそうだ。
 入社試験には当然ながら面接もあるが、顔で選ばれているわけではないだろうから、全員がイケメンではないはずだ。
 しかし噂は本当なのかもしれないと思ってしまう。
 現に前を歩く総務部長もかなりの長身イケメンだった。
 おそらくはまだ四十代にはなっていないだろう。
 部長という役職につくには若すぎる気もするが、「瀬川」と名乗ったのだから社長の親族関係のようだし、若くして要職にあってもおかしくない。
 同族経営の会社だというのでそういうこともあるだろうと、前に勤めていた会社のことをふと思い出した。
 イヤな気分になりかけたがどこも同じということはないと思ってそれ以上は考えないことにした。
 
 エレベーターを一階分ほど上がると、そこは営業部があるフロアだ。
「一階程度あがるなら階段を使うんだけどね、今日は特別だ」
 総務部長はそう言って営業部のドアに近づいた。
 営業部はガラスの壁で仕切られていた。
 中で社員が働いているのが見える。
 現会長が廊下を通っても働く社員たちの姿が見えるようにと発案したらしい。
 どうやらこれが功を奏したのか、外から見えることによってダラダラと働く社員がいなくなったというのだ。
 そこで総務部や商品開発室、販売企画部なども同じように室内が見えるようにしたそうだ。
 室内に入ると一番左端の窓を背にして大きな机で書類に目を通している男性のもとに連れていかれた。
「浅岡課長」
「はい」
 総務部長が声をかけると三十歳前後だろうと思われる男性が顔をあげる。
 光佳は友人の言っていたことはガセではなかったのかと確信することになった。
 短髪をきちんとセットして、少し釣りあがった眉はきりりとしていて、目元は涼やかな男性だった。光佳の好みとは違うがイケメンといっていいだろう。
 彼は書類を置いて立ち上がると総務部長とすぐ後ろにいる光佳に目礼した。
 慌てて光佳も会釈する。
「君から要望の出ていた事務担当の人が来てくれたよ」
「坂崎光佳です。よろしくお願いいたします」
 第一印象は大事だ。丁寧に頭を下げると浅岡課長は目を細めた。
「営業一課課長の浅岡雄治です。君には今日からこの一課の事務を担当してもらいます」
「はい」
 それじゃ詳しいことは課長に聞くようにと言って総務部長はいそいそと営業部を出て行った。
「今日から新入社員の研修が始まるからな。部長も忙しいんだろう。佐野さん」
「はい」
 浅岡は自分のデスクから二列向かい合わせになって並んでいる机の末席にいた女性に声をかけた。
 その女性は椅子からゆっくりと立ち上がって光佳たちのほうへ近づいてきた。
 そこで光佳は自分がここへ採用された理由を悟った。
 女性の腹部はふっくらと膨らんでいた。妊娠しているのだとすぐにわかる。
「坂崎さん、君はこちらの佐野さんから業務を引き継いでもらいたい。佐野さんは見てのとおり、出産間近で退職することになったんだ。産休を勧めたんだが、しばらくは育児に専念したいと言ってね。急遽代わりの社員に引き継がせようとしたんだが、これがまた結婚退職することになって……そこで総務部長にお願いして募集をかけてもらったんだよ」
「本当に急だったんだけど助かったわ。今月末で退職することになってたから、申し訳ないのだけれど、早速引継ぎをさせてもらってもいいかしら」
「はい。よろしくお願いします」
 


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実はちょっとだけ元ネタがあります。
第一話冒頭の光佳の結納の話なんですが、これは高校時代の友人のお姉さんの話が元になってます。
友人とお姉さんは年が離れているのですが、そのお姉さんは短大卒業後、東京の証券会社で働いていたらしいんです。そのときに出会った人と結婚することになったらしく、友人も夏休みだったので結納のために東京まで行く両親にくっついて行ったそうなのですが……
相手がお金持ちの家の長男だったそうで、家も成城にあるとかで、延々と相手の母親に厭味を言われたそうなんですよ。
「うちは昔からの名家なのに……云々」
言外に釣りあわないみたいなことを言われて、ついにお姉さんがキレたらしいです。
「もういいです。結婚やめます」
というようなことを言って、本当に結婚が取りやめになったそうなんですよ。

友人に聞いてびっくりしました。
「今時そういうことを言うんだ!?」
って。
高校時代の話ですし、もう時効かなと思って、ちょっとネタとして使わせてもらうことにしました。

本当にそんなことがあったのかは信じられないですが、こういう創作小説を書くのが元々好きだったので、ふいに思い出したんですよ。
「あ~、そういえば○○ちゃんがこんなこと言ってたなぁ」
結婚の話が出て、親に挨拶したときに言われて結婚をやめるっていうのはあるかもしれないけど、結納をするという段階になってそんな話になるのもどうなのよ!?とね。
それならばちょっと使わせてもらおう!
ということで(苦笑)

その他のことは実話ではありませんよ!?

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