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6年前のスパコミ関西で発行したらしい。
(もう記憶があやふやで覚えてない)
コピー本だったので、あまり数多く配布した記憶もない(汗)
ではでは続きから~。
未来リョ桜設定ですのでご注意ください。
【ボクの一番ほしいもの】
「ほら、しっかり耳を押さえてろ」
リョーマは小さな頭が動かないように手で抑える。
シャワーから出るお湯が適度な熱さになると、もう一度声をかける。
「いいか、かけるぞ」
「うん」
シャーッと泡だらけの頭にかけて、泡が出なくなるまで丁寧に髪をすすぐ。
少し茶色みがかった髪は、細くて柔らかい。
上下前後をぐるりと見て、泡がついてないことを確認するとお湯を止めた。
「よしいいぞ」
「ぷぁっ」
リョーマの一人息子(いまのところ)は息まで止めていたのだろうか、大きく息をつきながら懸命に手のひらで顔を拭う。幼いわりに水またはお湯は嫌いではないらしく、顔にかかっても平気なようだ。
苦笑したリョーマはその間に額にかかって水がしたたる髪をかきあげてやる。
続いて体を洗ってやってから、息子を湯船にいれた。
越前家の風呂は深めに出来ていて、まだ三歳の息子では一人で入ろうとすると落ちてしまう可能性が高いのだ。
「一から十まで数えたらあがってもいいよ」
そう息子に言うと、リョーマは自分の頭を洗い始めた。
「いーち」
「一真、肩までお湯につかってない」
「おとうさん、すごーい!こっちみてないよ」
一真はお湯の中で跳ねて、タプタプとお湯を揺らす。
「見てなくてもわかるんだよ。ほら、肩までつかれ」
「はぁい」
一真は縁をつかんで肩までつかった。
「もう一回最初から」
「いーち、にぃーい、さぁーん、しぃーい、ごぉーお、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅーう!」
ザバッと音をたてて立ち上がると、ちょうど髪を洗い終えたリョーマが一真の脇に手を入れて湯船から出す。
「桜乃ー、一真が出るぞ」
「はーい」
浴室の外へ向けて声をかけると、すりガラスのドアの向こうに桜乃の姿が見えた。
「はい、カズくん。こっちにきて」
桜乃は出てきた一真の頭にバスタオルをかけて手早く水気を拭き取る。
「おかあさん、おかあさん、おとうさんすごいの。みてないのにみえてるの」
「なあに?どういうこと?」
桜乃は不思議そうにリョーマを見た。
体中を泡だらけにしたリョーマは先ほどのことを教えてやると、桜乃は納得したように頷く。
「おとうさんはすごいねぇ。きっとカズくんのことは遠くにいてもわかっちゃうんだよ」
「えーっ!おとうさんすごいよ!」
「そうだよ。だから、カズが悪いことをしたり、母さんを困らせたりしてもわかるんだからな」
湯船にはいったリョーマは縁に肘をついて、母親に服を着せられる一真を見る。
「オレ、そんなことしないもん」
「本当か?」
「ホントだよ!オレね、いつもいつもお母さんのお手伝いしてるんだよ」
父親の言葉を真似るようになったのか、いつの間にか「オレ」という一人称をつかい始めた一真はくるくると表情を変える。
自分が一真くらいのころはどうだったかなと思い出そうとするが、当然のことながら思い出せない。両親に聞けば教えてくれるかもしれないが、母親はともかく父親には聞きたくない。
幼稚園には通っているものの、家に帰ればずっと母親の桜乃と一緒だ。その辺は桜乃に似たのかもしれないとぼんやりと考えた。
ブォーという音をたてたドライヤーで頭を乾かされている一真は、一生懸命にリョーマに訴える。
「あのね、お手伝いしたら、お母さんがたんじょうびに好きなものをくれるって言ったんだ」
「ふーん。桜乃、そんな約束したの?」
ブラシで一真の髪の毛を梳く桜乃に問い掛けると、その手を止めて目を丸くする。
「え、だ、だって、プレゼントはあげるでしょう?」
「そりゃまあね」
リョーマとしては、そろそろジュニア用のテニスラケットでも買ってやろうかと考えていたのだが、プレゼントは二つあっても三つあっても構わないだろう。どうせ越前家と竜崎家の両親からもプレゼントはもらえるのだから。
「で、カズは何が欲しいんだ?」
「赤ちゃん」
「…は?」
「たっくんちにね、赤ちゃんがうまれたんだって。遊びにいったときに見せてもらったら、すっごくかわいかったよ。だから、お母さんに赤ちゃん産んでって言ったの」
「か、カズくんっ、赤ちゃんはまた今度ねって言ったでしょ!?」
明らかに動揺した桜乃は一真を居間へ追い立てる。
「だってー、お母さんがお父さんにおねがいしてって言ったじゃない」
「へー…」
リョーマは口元に笑みを浮かべた。
「おねがいされてもいいけど、オレが産むんじゃないからなぁ…」
「か、カカ、カズくんっ、ほら、晩御飯もうすぐだから待っててね!」
桜乃はなんとなく身にふりかかる危険を察知したのか、一真と一緒に脱衣所を出て行こうとしたのだが、後ろから腕をつかまれる。
「ねぇ、お母さん」
「は、はいっ!?」
風呂から出てきたリョーマは、腰にバスタオルを巻いたまま桜乃の耳もとで囁く。
「オレも、そろそろ『二人目』が欲しいんですけど」
「~~~~っ!」
桜乃は頬を膨らませたままでクルリと振り返った。
「カズくんのプレゼントの件はまたあとで!」
「あとで、ね。それって『いつ』のこと?」
「知らないっ!」
耳まで真っ赤になった桜乃は脱衣所を出て行った。
―お母さん、顔真っ赤だよ?お熱でもあるの?
―え?ち、違うよ。大丈夫だからね
―ねぇ、お母さん
―な、なにっ?
―赤ちゃんはお父さんにおねがいするんじゃないの?
―えーとね、だから…だからぁ……リョ、リョーマくーん!
ダイニングでの妻と息子のやりとりが聞こえていたリョーマはクスクスと笑いながらパジャマに着替えてダイニングに入っていった。