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管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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今気づいたんだけど、間違えてSS消してた!?

いかんいかん。
改めて再UPしておこう。

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「そうそう。そうやって、同じように続けて。花の配置も考えたほうがいいね」
 
 ギルバートの声は穏やかで、遠い昔、勉強を教わっていたころと何ら変わっていないことを感じさせる。
 リヒャルトはテーブルに並べられた色とりどりの花を慎重に選びながら花冠を作っていく。
 明るく、それでいて優しい色合いの花々は、リヒャルトが思い描く花嫁の印象なのかもしれない。
「……きみは相変わらず器用だね」
「そうでしょうか?」
「飲み込みも早いから教えがいがあって楽しいよ」
「それは兄上の教え方が巧いからですよ」
 謙遜するでなく、常に相手のことをうまく立てる弟の言葉にギルバートは苦笑する。
 生来優しい性格なのだろうが、相手に気を遣いすぎるのではないかと思うときがある。だがそれを言っても弟はやめないだろうし、自分が言うべきことでもないかもしれない。
「それにしてもなかなかいい思いつきだね。きみの手作りと知ればミレーユさんも喜ぶね」
「……何か、自分の手で作ったものをあげたかったんです」
 少しだけ手を止めたリヒャルトは花をじっと見つめた。
「『月の涙』は大公妃の証としてミレーユに渡しましたが、あれは母上からいただいたものですし、他にもいくつか首飾りや耳飾りも贈ったのですが、俺は選んだだけですから――。ミレーユは俺の体を気遣って薬草茶や食事を作ってくれているので、俺も何か自分で作ったものをあげたかったんです」
 顔をあげたリヒャルトは穏やかに笑う。
「いずれ枯れてしまうかもしれないけど、これなら俺にもできそうだったので」
「うん、いいんじゃないかな。今日のミレーユさんのドレスには似合うだろうね」
「はい」
 真剣な顔つきで花冠を作るのは、それだけ許婚のことを真剣に思っているからなのだろう。
 ギルバートはそっと目を閉じて声を立てずに笑った。
「少しだけ、心配していたんだよ」
「え?」
 怪訝そうな弟を目を細めて見つめた。
「きみは小さな頃からお嫁さん候補がたくさんいたからね。君は優しいから誰が正妃になっても大切にするだろうし、他にも何人か後宮に入っても同じように大切にしたかもしれない。でも、誰か一人を真剣に深く愛することができなくなるんじゃないかって心配していたこともあるんだよ」
「兄上……、そうだったかもしれません」
 王太子として学んでいた頃はそれが当たり前のことなのだと思っていた。自分が自分のために欲しいものを欲しいと言ってはいけないのだと思っていた。
 けれど、ベルンハルト家の双子たちと出逢って考えが少しだけ変わった。
 それもいい方向へだ。おそらく、だが。
 中には渋い顔をする者もいるけれど、自分に近しい人々は概ね認めてくれている。
 大切なものをたくさん失った。
 けれど、それを補うだけのものがこの手に入った。
 もう絶対に失ったりしない。
 自分はもう非力な子どもではない。
 為すべきことを為すだけの力が今の自分にはある。
 そして自分は一人ではない。
 
「できました」
 ようやく完成した花冠を兄に見せる。
「うん、綺麗にできたね」
 満足そうに頷いたギルバートは手を伸ばしてリヒャルトの頭に触れた。
 
「よくできました」
 
「……」
「あ、ご、ごめん。もう子どもじゃないのに、昔の癖が出てしまったね」
「いえ……嬉しいです」
 幼い頃、勉強を教えてもらっていたときにときどきこうして褒められた。
 失ったと思っていたものが、本当は失われていなかったのだと実感した。
 
 ほんの少しだけ泣きそうになったのは、婚約者には内緒だ。

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