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管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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間に合った!
久々の新作&イベントネタです。
今日一日で書き上げました。
「そういえば、ツバサナでバレンタインネタって書いてないな~」と思ったので。

今回は新作です!

これまでの作品は全部10年前に書いたものばかりですから!
文章が少し変わってるかもしれないので、その辺は軽くスルーしてやってください。

では、結婚後のツバサナでバレンタインデーSSです!

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「おつかれ、ツバサ、また明日な!」
「はい、お疲れさまでした!」
 カンプノウそばにあるFCバルセロナの練習場のクラブハウスにて、練習を終えたチームメイトたちは帰り支度を終えると出て行く。
「ツバサ、よかったらメシ食って帰らないか?」
 若手の一人に声をかけられたが、翼はすまなそうに言った。
「すみません。今日は奥さんに早く帰ってくるようにって言われてるので……」
「ん? そうか……って! そうか! 今日は、うん、そうだよな! う~ん、日本人女性は奥ゆかしいって聞いてるけど、今日くらいはそうだよな!」
 翼はまだ新婚だ。
 二十歳になったばかりだというのに、このチームに入ってきたときにはすでに結婚していると聞いて驚いたし、つい最近には近いうちに子どもが生まれると聞いたばかりだ。
 プロスポーツ選手にとって生活を支えてくれる家族の存在はとてもありがたいものだ。
 ましてや外国人である翼にとって、若い妻を守らなければならない気持ちは強いだろう。
 実際、翼夫婦はとても仲がよいのだとリバウールやゴンザレスたちから聞いたことがある。
 バシバシと背中を強く叩かれ、翼は軽く咳き込んだ。
「くっそ~! 奥さんがいる奴は羨ましいぜ! おれも誰か誘おうかな~!」
「? なんだろう?」
 
 自宅のあるマンションの前までたどり着くと、まだ日暮れには早いためか、家の窓には明かりがついていなかった。
「今日って、何かあったっけ?」
 チームメイトの反応といい、なんだか気になる。
 今朝、いつもと同じように家を出るときに、早苗に言われたのだ。
――翼くん、今日は早めに帰ってきてね
 めったにそんなことを言わない妻に、どうしたんだろうと思いつつも特に断る理由もなかったので素直にうなずいたのだった。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
 玄関のドアを開けた途端、甘ったるい香りが漂ってきた。
(この匂い……)
「おかえりなさい。翼くん」
 ゆっくりとした足取りで早苗が出迎えにきた。
 妊娠してはいるものの、まだその腹部は目立つほどには大きくなってはいないが、確実に彼女のお腹の中で新しい命が育っていることを翼は知っている。
「どうしたの? チョコレートの匂い……」
「うん。だって今日はバレンタインデーでしょ?」
「ああ」
 そうだったかと翼は納得した。
 日本を離れて四年以上が過ぎていたし、翼自身、あまり興味がないことだったのですっかり忘れていた。
「あれってさ、日本だけのイベントみたいなものなんだろ?」
「知ってます」
 翼からバッグを受け取った早苗はむくれた顔で言った。
「どこかのお菓子会社の陰謀だってことでしょ? いいの、それでも。日本の女の子にとって、好きな男の子に告白できる数少ないチャンスの日なんだから」
「早苗ちゃんには必要ないじゃないか」
 おれの奥さんなんだから。
 結婚して、子どもだってできたのに、愛を告げる日が必要だとでも?
 バッグを片付けた早苗は腰に手を当てて翼を見上げた。
「もう、翼くんはチョコレート欲しくないの?」
「欲しいです」
 へへと、翼は笑った。
 懐かしいなと思った。
 中学時代は大変だった。
 中一のときは休み時間のたびごとに呼び出されては告白まがいにチョコレートを手渡され、放課後には部室にまでやってくる女子生徒がいれば、帰りに校門で待ち構えている他校生がいた。
 中二のときはさらに増えた。学校あてに全国から送られてきて、部員全員で分け合って食べたものだ。
 中三のときは……
 
「思い出しちゃったのよ。中学生のときは翼くんにちゃんとしたものをあげられなかったなって。昨年だって、お互いに忙しかったでしょ?」
「え、でも早苗ちゃんはくれたじゃないか」
「中学の一、二年のときはマネージャーとしての義理チョコでしょ。三年のときは受験前だったから、仕方なくお店で買ったものだったんだもの」
 昨年は中学時代よりは奮発したものの、チョコレートだけになってしまったのが悔やまれてならないのだと早苗は言った。
「そんな、無理しなくても……」
 早苗が笑って自分のそばにいてくれれば十分なのにと翼は思う。
 けれど、こうして彼女が自分への愛情表現に一生懸命になる姿を見ればやはり嬉しいと思うのだ。
 
「でも、国によってはバレンタインデーって男性が女性にプレゼントを贈る習慣があるんですってね」
 食事中、早苗がボソリとつぶやいたので口に含んだ水が気管に入ってむせてしまった。
「す……すみません」
 日本人にとってバレンタインデーはお祭りのようなイベントだというのは中学時代には知っていたが、外国の習慣なんて知らない。
 ブラジルではバレンタインデーなどなかった…………はずだ。
 昨年、結婚の準備などでたまたま日本に戻った時に早苗からチョコレートをもらったので、そういえばと思い出したほどだ。
「フフ、いいのよ。私たちは日本人だもの。スペインでもね、バレンタインデーってあるらしいんだけど、恋人たちの日って感じなんですって」
「ああ、それで」
 さすがは情熱の国スペイン。チームメイトたちの様子がいつもと少し違っていたと思ったのだ。
 中にはあきらかにプレゼントらしきものを持って帰っていく人もいた。
 そして帰りの出来事だ。
「リバウールさんの奥さんもブラジル人でしょう? ブラジルではそんな習慣ないから、気にしたことないんですって。リバウールさんも特別になにかしてくれたことはないって言ってたから」
「ふ、ふーん……」
 だからか。
 リバウールは普段と変わった様子は見せなかった。
「だからね、私は私らしくしようかなって思ったの。だって一度くらいは翼くんに手作りチョコをあげたかったんだもの」
 食事後にコーヒーと一緒にガトーショコラを出してくれた。
 甘ったるい香りの元はこれだったようだ。
 
「おいしそうだね!」
 翼は甘いものも平気だ。
 生クリームを添えられたケーキはおいしくて思わず頬が緩む。
「うん、うまい!」
「よかった」
 早苗は料理が上手だ。いつもちゃんと栄養バランスを考えて作ってくれているし、たまに習ったばかりのブラジル料理も作ってくれる。
 最近ではピントの母親にスペイン料理を教わっているらしい。
 妻として尽くしてくれる早苗に何かお礼をしなくてはと思う。
 そういえば、日本にはホワイトデーがあったのだった。
 その日に何かプレゼントをしよう。
 
 ケーキを食べる翼を頬杖ついて眺めていた早苗がクスリと笑った。
「そういえば、翼くん。中学のときはたくさんもらってたわね」
「え? う、うん……」
 中一のときに全国制覇を成し遂げてからというもの、告白されることはしょっちゅうで、バレンタインデーなんて大変だった。
「あのね、翼くん」
「ん?」
「あのときのチョコレート食べてくれた?」
「うん、もちろんだよ」
 マネージャーたちが少ないであろうお小遣いで部員全員のために用意してくれたチョコレートだ。
 他の学年がどうかは知らないが、翼たちの代はことのほかマネージャーを大切にしていた。
 二人とも気がついていないかもしれないが、身内のような特別な存在だったのだ。
 だからだろうか。義理チョコだとわかっているのに、誰もが示し合わせたかのように大事に家に持ち帰っていた。
 申し訳ないことにその他大勢からのチョコレートは部活後のおやつになってしまったが、食べ盛り育ち盛りの少年たちだ。あっという間になくなってしまったのは言うまでもない。
 ホワイトデーには翼たちもお小遣いを出しあってマネージャーたちにお返しのためのクッキーやキャンディを用意したものだ。「もう、こんなに食べきれないわよ!」と言いながらも嬉しそうに受け取ってくれたけれど。
 そこでふと思った。
「あのさ、早苗ちゃん」
「なに?」
「高校のときはどうだったの?」
「え?」
 チラリと早苗の表情を窺う。
「おれ……もらってないと思うんだけど」
「え? ……だって、食べ物よ? ブラジルに届くまで時間がかかるし、チョコレートなんて送ったら溶けちゃうでしょ?」
「そりゃ、そうなんだけど」
「だから手紙送ったじゃない。カードと、あと、南葛高のみんなで撮った写真とかを一緒に」
「あ、あれか!」
 あまり気にしてなかったけれど、そういえばミニアルバムっぽくなっていたなと思ったのだ。
「だって、翼くんに何を送ったらいいのかわからなくて……どうせならみんなの近況がわかるものがよかったかなって」
「うん、あれは嬉しかったんだけど……さ。おれが訊きたいのは、高校では誰かにチョコをあげたのかなってことで……」
「気になる?」
「え、そりゃそうだよ」
 うふふ、と早苗は笑う。
「中学と同じよ。サッカー部のみんなにあげましたとも。ゆかりと一緒にね。でも私たちのチョコなんて霞んじゃってたなあ。夏のインターハイ準優勝に、冬の国立でも準優勝でしょ? 岬くんたちなんて、中学のときの翼くんの比じゃなくもらってたわよ。高校生ともなると違うんだなってびっくりしちゃった」
 可愛いラッピングに、プレゼント付きのものまであって。
 自分たちマネージャーが用意したチョコレートなんてどこにでもあるようなもので。
「へえ」
「でも、みんなもらってくれてよかったわ」
「マネージャーたちからもらえるチョコレートは特別だったんだよ。おれたちにとってはね」
「そうなの?」
「うん」
 パクリと最後の一口を口に入れる。
「ごちそうさま。これって明日も食べれるかな?」
「うん、まだ残ってるから」
「やった!」
 早苗はニコニコしながらマグカップのホットミルクを飲む。
「日本はどうなってるかしらね」
「ん、日本?」
「そうよ。ある意味、女の子にとっては一大イベントだもの」
「ああ、そうだね」
 最近では本命、義理チョコだけではなく、友チョコなるものまであるらしい。
「翼くんがスペインでよかったかも」
「え?」
「だって、Jリーグに入ってたら、もしかするとものすごい数のチョコレートが送られてきたかもよ」
「まさか」
 翼は笑う。
 おれ、奥さんいるし。
 ワールドユース優勝後、翼の結婚報道がテレビや新聞に取りざたされたとき、悲鳴をあげた女性ファンが多くいたと聞く。「翼のファンも減っちまったかもな~」と石崎は言っていたが、翼は知ったこっちゃないと思っていた。自分はサッカーをやりたいのであって、ファンを増やしたいのではないのだから。
「そういうのは関係ないの。奥さんいようがファンとしての行動なんだから。中三のときのこと、覚えてる?」
「う、うん……」
 
 翼はチョコレートを受け取るまいと、すべて断っていたのだ。
 学校あてに送られてくるものは仕方ないにしても、せめて手渡しされるものだけでも拒否しなければと。
 だというのに、同学年からは「ただの義理だから」と笑って手渡され、後輩からは「付き合ってほしいとかじゃないんです。受け取ってもらえるだけでいいんです!」とか「ただのファンですから!」と言われては断るに断れなくて、ついつい受け取ってしまったのだ。もちろん、それ以外の本気の告白については丁寧にお断りしたのだが。
「まあ、翼くんのファンの一部は岬くんに流れちゃったみたいだけどね」
「そうだったの?」
「うん、翼くんが、その……私と付き合い始めたって聞いて、その後で岬くんが転校してきたでしょ? 翼くんとは黄金コンビを組んでたこととか、ジュニアユース優勝メンバーだって知ってる子たちが実物見てファンになっちゃったっていう子がけっこういたみたいなの」
「ああ、それで……」
 岬も日本に戻ってきてこんなことになるとは思っていなかったらしく、机の上いっぱいになったチョコレートの包みを目にして、「ボクがもらってもいいのかな?」と困惑していたこと思い出した。
「そういえば、それを見た石崎くんが……」
「そうそう! すごく悔しがってたでしょ!?」
「思い出した思い出した! 『おれだってジュニアユースの優勝メンバーなのに!』って」
 そのときのことを思い出して声をあげて笑う。「おまえと岬じゃなあ……」、「どうみても分が悪い」などと仲間たちに慰めにもならない言葉をかけられていた。
「今年は大丈夫でしょ」
「ん……そうだね」
 大勢のファンからもらえるよりも、たった一人にもらえることが嬉しいことを知っているのだから。
 
「ほら、昨年みたいにメールがくるかもよ」
「かもね」
 
 翌日、「もらったぜ~! 翼、おまえはあねごからもらったか?」と写真つきでメールが送られてきたのを見て、翼と早苗は顔を見合わせて笑い、翼もガトーショコラを写真に撮って返信したのは言うまでもない。
 
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