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管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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なかなかウケがいいので、しばらくツバサナSS投稿しようかと思います。
それとも支部のほうがいいのかね?

C翼は「GOLDEN-23」までで、年代はバラバラに書いてたので、中学時代だったり、WY編あたりだったりもするし、結婚後とかもあったりする。

なので、書いた本人でさえ、中身読んでみないとどのあたりかわからない(苦笑)

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【君を探して】
 
 
 
 翼たちが南葛中学に入学してから一ヶ月がたった。
 そろそろ全国大会の県予選にむけて練習試合を多く組み込まれるようになる。
 そして初めての練習試合の前の日。
 試合に出るレギュラー十一名のメンバーが発表された。
「センターフォワードに大空翼!」
「は、はいっ!」
 やったな!翼!と石崎たちが肩を叩く。
 顧問の古尾谷から見ても、二、三年生たちよりも翼の実力が上だ。
(恐ろしいものだな。これが全国大会優勝チームのキャプテンの、いや、サッカーの天才と呼ばれる力なのか)
 二、三年生も翼がレギュラーに入ることに不満はないようだった。
 本当は修哲から入学してきた井沢、来生、滝、高杉も上級生レベルと遜色なかった。即レギュラー入りさせてもいいくらいなのだが、それでは上級生たちのほうから不満が出るかもしれない。それでも実力があるのは確かなので補欠で登録するつもりだった。
「はい、翼くん」
 マネージャーの早苗から手渡されたのは19番の背番号が入ったユニフォームだった。
 さすがに10番はもらえないらしい。
 でもサッカーは背番号でやるものじゃない。試合に出るからには必ず勝つ。その気構えが必要なのだ。
「おめでとう、翼くん。さすがね」
「あ、ありがとう。マネージャー」
 早苗はニコッと笑うと補欠で登録された井沢たちにもユニフォームを配った。
 
 その日の帰り道。
「さすが翼だよな~。先輩たちさしおいてセンターフォワードだってよ!」
 石崎が自分のことのようにはしゃいで喜ぶ。
「井沢たちも補欠だし。こりゃ今の三年生が引退したら、半分くらいおれたちがレギュラー取るんじゃねぇの?」
「そんなに簡単にいくかな」
 来生が言う。
「そうだよな……」
「お、おい、なんだよ。どういう意味だよ」
「先輩たちさしおいておれたちがレギュラーとれるか?」
「だって、実力勝負じゃねえか」
 まったくそのとおり。
 石崎のいうことは至極正しいのだが、中学高校の部活動といえばタテ社会である。年上がエライのだ。
「そうだけど…なぁ」
「うん…」
「大丈夫だよ!」
 それまで黙って聞いていた翼が明るい声を出す。
「誰にも文句つけられないように、力をつければいいんだからさ!」
「そうだな」
 翼を見ていればそれはわかる。
 どうみたって翼のほうが上級生たちよりも実力がある。それを知っているからこそ、上級生たちはなんの不満もなくレギュラーとして認めたのだ。認められないのなら、翼よりも巧くなるしかないのだから。
「先輩たちは何も翼くんが巧いからってだけで認めてるわけじゃないわ」
 一番後ろを歩いていた早苗が口を開く。
「え?」
 と誰もが振り返った。
「翼くんは誰よりも練習してるもの。毎日誰よりも朝早く来て、放課後も遅くまで練習してることが多いもの。そこまでしてる人を認めないなんて言ったら、先輩たちは心が狭すぎるわ」
 早苗としては翼をフォローするつもりで言ったのだが、周りはそうは見なかったようだ。
 ニヤニヤと妙な笑みを浮かべる。
「へぇ~、そんなことを知ってるってことは、マネージャーも朝早く来て、遅くまで残ってるんだな?熱心だな」
「えっ」
「だってそうなんだろ?」
「そうしなきゃ翼が早く来てるとかわかんねーじゃねぇか」
「だ、だって、私はマネージャーだから、いろいろと準備とか片付けとかあって、それで…」
 頬が赤らんでくる。チラリと翼を見ると、バッチリと目があってしまい。お互い困ったように目をそらす。
「はいはい、わかったわかった」
 石崎がすべてわかっているというように早苗の肩を叩く。
「翼のために準備とか片付けとかしてるんだろ?」
「だから、そんなんじゃなくて…」
「いいってわかってるんだから。おれたちは何も言わねぇよ」
「言ってるじゃない!」
 もう知らないっ!と早苗はぷいっとそっぽを向いてスタスタと歩き始めた。
「早苗、待ちなさいよ!」
 ゆかりが後を追って小走りになる。
「ずいぶんと大人しくなったよな」
「ああ、あれくらいで終わるんだからな」
「小学生のときとはえらい違いだぜ」
 南葛小出身者の石崎たちは小さなころから見ているので、早苗の変わりように驚いている。
「でもさ、いままで気づかなかったけど、ああしてみるとあねごってけっこう可愛い部類に入るんじゃないのか?」
「あれ、井沢、おまえ実は好みだったのか?」
 思わぬ発言にみなが井沢を見る。
「いや、そうじゃなくて、応援団のあねごのイメージが強いだろ?そういうのなしでよく見てみると可愛い顔してるんだよな」
「そうだっけ?」
「ほら、みんなそんな感じだからな。翼はどう思う?」
「えっ」
 いきなり矛先がまわってきて動揺する。どうもこういうことは答えにくい。
「お、おれは…」
 顔をあげるとみなの視線が集中している。石崎などすでに追及体勢に入っていた。
「あっ!」
 いきなり声をあげた。
「な、なんだよ!?」
「ごめん!今日はポルトガル語のレッスンがあるんだった!」
 翼は勢いよく走り出す。
「また明日!」
「お、おう!」
 手を振って翼を見送ると、石崎はポツリと言った。
「あいつ、まさか逃げる口実じゃないだろうな?」
 中学入学と同時に翼はポルトガル語のレッスンを受けるようになった。中学を卒業したらブラジルへ行ってプロになるつもりだからだ。そのために会話ができ、文章も理解できるようにブラジルからの留学生を家庭教師として雇っているのだ。
 初めにそのことを翼から聞いたとき、こいつは本気なんだと思った。中学を卒業して親元を離れて遠いブラジルに行ってまでも本気でサッカーのプロ選手になりたいと願っているのだ。
 
「早苗~、待ちなさいよ」
「…」
 ゆかりが追いかけてくるのを待って二人肩を並べて歩き出す。
「もうちょっと大人になりなさいよ」
「だって、翼くんがいるところで…」
「いまさら何言ってるのよ」
「いまさらだから嫌なのよ~」
 早苗は片手で顔を覆った。恥ずかしいったらありゃしない。
「ホントなのよ?朝練の準備をしに早く行ったら翼くんが練習してるだけで、それに私いつも翼くんが遅くまで残ってるのにつきあったりしてないし」
「うんうん、わかったわ。翼くんもわかってるだろうから」
 ゆかりがなだめるように肩を叩く。早苗は下に弟がいるからお姉さん気質ではあるのだが、ゆかりのほうがもっとお姉さんのようだ。
「…でも、よかったじゃない。翼くん、レギュラーで」
「うん」
 早苗はまるで自分のことのように嬉しそうに笑った。これだけでも早苗の翼に対する気持ちがわかろうというものだ。
「南葛中学、全国大会初出場!なんてことになるかもよ」
「うん、そうね…。翼くんがいると、そんな気がしてくるのよね」
「まさか、優勝なんかしちゃったりして」
「しちゃったりするかもね」
「えーっ、いくらなんでも無理でしょ!?」
「でも……翼くんだと不可能がないような気がするの」
 早苗は夕焼け色に染まる空を見上げた。
「きっといつか、ずーっとずーっと空高く飛んでいく鳥みたいに飛んでいくんだわ…」
 
 その夏、南葛中学は全国大会初出場にして、初優勝を飾った。
 
 
「南葛ファイトーッ!」
 秋の新人戦が始まる頃、南葛中サッカー部はすでに翼を中心とする新体制をとりつつあった。キャプテンこそ二年生がやっていたが、レギュラーは翼をはじめとして、井沢、滝、来生、高杉がレギュラー入りしており、その他、補欠にも石崎、森崎が加わっていた。
 夏に全国優勝してからというもの、練習試合の申し込みは後をたたない。
 今日も隣町の中学がやってきていた。
 やはり応援好きだからなのか、早苗がメガホンを持って声援を送っている。
 それに触発されてか、南葛のメンバーたちの動きはよかった。
「来生!」
「おう!」
 翼の送ったセンタリングで来生がシュートを決める。
「ナイスシュート!」
 みんなが来生の周りに集まる。
「来生くーん!ナイスシュート!」
 よく通る高い声が聞こえて南葛ベンチを見ると、早苗が大喜びでぶんぶんとメガホンを振っている。
「ハハハ、マネージャーすごく喜んでら」
「なんか、ああいうの見てると嬉しいよな」
「よし、このまま追加点を奪うぞ!」
「おう!」
 翼もその声に元気をもらったかのように走り出した。
 結局、その試合は5-0で南葛が勝った。
「みんな、おつかれさま!」
 三年生が引退したので、マネージャーは早苗とゆかりの二人だけだ。二人はレギュラーメンバーの間をくるくると動きまわる。
「はい、翼くん」
「サンキュー」
 タオルとスポーツドリンクを受け取った翼は大きく息をついて汗を拭った。
「MFの位置にはもう慣れた?」
「うん、もうずっと前からシミュレーションしてきてたからね。自分が考えてた動きとみんなの動きがうまくいったときなんて、やった!って感じだよ」
「これからはゲームメイクはずっと翼くんがするの?」
「おれが目指してるのは、ゲームメイクができて点もとれるプレイヤーなんだ。いまのおれじゃまだまだゲームメイクだけで…」
「おい、翼!」
 石崎に肘でつつかれて翼はハッと我にかえる。
 皆がニヤニヤと笑いながら見ていた。このころには一年生の間だけでなく、二年生にまで二人の仲は公認のような扱いとなっていた。
 古尾谷までが苦笑している。
「翼、中沢、話に夢中になるのはいいが、先生の話もちゃんと集中して聞いてくれよ」
「すいません」
「すみません…」
 早苗は頬を赤らめて俯いた。チラリと翼のほうを見ると、視線に気づいたのか翼が苦笑する。
「怒られちゃったね」
 あっけらかんとした表情で言うので、早苗もつられて笑った。
 
 それから数日後。
 放課後になって翼が石崎とともにサッカー部の部室へ歩いていると、後ろで「っくしゅんっ」と小さなくしゃみが聞こえた。
 振り返ると早苗が口を押さえている。翼は首を傾げた。
「マネージャー、風邪?」
「え?そうなのかな……っくしゅんっ」
「おいおい、風邪うつすなよな~」
「ずいぶんと寒くなってきたし、温かくしてたほうがいいんじゃない?」
「うん……そうね」
「おっ、翼は優しいねぇ~」
 石崎のからかうような口調に翼はついムキになる。
「そうじゃないよ。風邪ひいたらマネージャーも辛いだろうし、それにおれたちもマネージャーがいないと困るじゃないか」
「うんうん、翼は困るんだな?」
「だからおれじゃなくて…」
 ムキになればなるほどからかいたくなるのが心情というものだ。
(もう、翼くんがムキになるから…)
 石崎はおもしろがるのだろう。
「っくしゅんっ」
 早苗はぶるっと身震いする。
 これは翼のいうように、本当に風邪かもしれない。
(温かくしておこう…)
 一応は気をつけてみたものの、早苗は翌日、ものの見事に高熱を出した。
 
 晴れ渡った空の下、サッカー部は練習試合をしていた。
「ナイスシュート、翼!」
「はいっ」
 先輩に肩を叩かれ頷いた翼はチラリとベンチを見る。
 そこには早苗の姿はない。
 二日前から学校を休んでいるのだ。
 親友のゆかりの話では熱が下がらないという。
「ナイスシュート!」
 ゆかりの声が聞こえる。応えるように手を振りはしたものの、翼は少し寂しいと感じていた。
(なんだか、マネージャーに応援されるのに慣れてたんだな)
 思い起こせば、自分が南葛に転入してからずっと早苗は応援し続けてくれているのだ。
 応援されるというのは、本当に嬉しいものなのだと翼はしみじみと感じていた。
 
 翌週の月曜日。
 前を歩くセーラー服の少女の後姿に気づいた翼はボールを蹴りながらその少女に追いつく。
「おはよう、マネージャー!」
「…おはよう」
 微笑んだ早苗の口から聞こえたのは思いっきりしゃがれた声だった。
 翼はあんぐりと口をあける。
「ど…どうしたの、マネージャー!その声!」
「風邪ひいて、ノドをやられちゃったみたいで…ようやくここまで出るようになっ…コンコンッ……コンッ」
「あ、いいよ。無理して喋らなくていいから!」
 翼は喋るだけでも辛いのだろうと察して止めた。
「熱は下がったんだね?」
 コクン。
「体もほうも大丈夫なんだよね?」
 コクン。
「声だけが出ないんだ…」
 コクン。
「そっか。でもよかった。こうして学校に来てるってことは、風邪がよくなってるってことだもんね。皆で心配してたんだ」
「ごめんね…迷惑かけて…」
「いや」
 翼は首を振る。
「新人戦まではまだ時間があるから、それまでに治せばいいよ。無理は禁物だよ」
 とくとくと語る翼を見て、早苗はクスクスと笑った。
 いつも無理しているのは翼のほうなのに、本人から無理は禁物なんて言われたら、なんだかおかしくなってしまう。
「何笑ってるんだよ…。あ、おれが言ってるのがそんなにおかしい?」
 コクンと頷くと、翼は少しだけ頬を膨らませる。そうすると元々可愛い系の顔がますます幼く見えた。
「どうせおれが言うと説得力ないよね」
 早苗はクスクスと笑いながら、ごめんねというように小首を傾げる。
「謝っても遅いです」
 と翼は言うが、顔は笑っていた。
 
「おまえら、楽しそうだなぁ」
 
 後ろから声をかけられて振り返ると石崎がいた。
「オッス、二人とも」
「あ、おはよ、石崎くん」
「おはよう」
 早苗の声を聞いた石崎は翼と同じ反応をした。
「どうしたんだよ、マネージャー!その声!」
「ノドやられちゃったみたいで、声が出ないんだって」
 早苗のかわりに翼が説明する。
「はぁ~…そりゃ大変だな。でも学校には来れるようになったのか。よかったじゃねぇか」
 なんだかんだといいつつも、石崎もそれなりに心配していたのだろう。元来、優しい性格なのだ。
 早苗が思わず感動していると、石崎はニヤリと笑って翼の肩を叩いた。
「よかったな、翼。マネージャーが元気になって」
「え?う、うん」
「マネージャーが休みの間、ずーっと元気なかったもんな」
「そ、そんなことないよ!」
「そんなことあるだろ~?この間の練習試合のときなんて、ベンチを何度も見てたもんな。あれは西本マネージャーをを見てたんじゃないだろ?」
 石崎は意外と人のことをよく見ている。
 そんなにベンチを気にしていただろうかと焦ってしまった。
「無意識ってのは怖いよなぁ」
「そ…そうだったかな…。ただ、いつもマネージャーの声が聞こえてたから、それが聞こえなくて変な感じはしてたんだけど…」
「あ、それは言えてる。なんか、マネージャーの声が聞こえないと物足りないんだよな」
 翼の言葉に石崎も同意したので、少し話がそれて内心ではホッとした。
「いつも怒鳴られてばかりだったからな。あの怒鳴り声が聞こえないといつもの調子がでねぇんだよな」
 うんうん、と石崎が頷くと、その頭をポカリと小さな握り拳が殴った。
「アタッ!なんだよ」
 見れば早苗がぷーっと頬を膨らませていた。
 ポカポカと背中を叩く。それは大して力はこめられてはいないのだが、石崎は大仰に逃げ回った。
「なんだよ!正直に言ってるだけなのに!」
 それを聞いた早苗の足はますます速度があがった。
「アハハハッ!そりゃ石崎くんが悪いよ。マネージャーが怒ってるもん」
「おれは褒めたつもりなんだって!」
 その騒ぎは学校に到着するまで続いたのだった。
 
 その週の土曜日。
 南葛中学のグラウンドでは練習試合が行なわれた。
 翼のゲームメイクで着々と追加点をあげていく南葛の動きは後半になっても止まらなかった。
「翼!ナイスシュート!」
「うん」
 この日、初めてゴールを決めた翼はフォワードの来生や滝に肩を叩かれる。
 そして石崎に指摘されたにも関わらず、翼は無意識にベンチに目をやった。
 そこには早苗がいて、翼と目が合うとにっこりと笑った。
 喉の調子はずいぶんとよくなって、声もだんだんと元通りにはなっていたのだが、まだ応援できるほど大きな声を出すのはつらいらしく、今日も大人しく試合を見守っていたのだ。
 だが、早苗の声は届かないのに、「やったね!ナイスシュート!」という気持ちが視線から伝わってきた。
 だから翼も小さく頷いて応えた。
 
 早苗は翼が応えてくれたことが嬉しくて、ますます笑みを深くした。そして周囲にはわからないような仕草で軽く片手をあげたことに気づく。それが自分に対してだと思ったら嬉しくて小さく笑い声をあげた。
 それに気づいたゆかりが尋ねる。
「どうしたの?早苗」
「ううん、なんでもない」
 普通に会話するだけなら喋れるようになった早苗はスコアブックを抱きしめた。
 
 嬉しい。
 たったそれだけのことなのに。
 
 嬉しい。
 君がそこにいて、見守っていてくれることが―――
  
 
 その気持ちが何なのか。
 それにはまだ、気づかなくてもいい。
 
 君を探せば、すぐそこにいる。
 いまはまだ、それだけでいいと思っているから―――
 
 
 
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