管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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もう一つ投下しておきます。
前にも書いてますが、このツバサナSSは新作ではないです。
以前、二次創作サイトに置いてあったものをブログに再投稿してるだけで、書いたのは10年前です。びっくりだよ。最終更新日が2006年だったから。
時代は順番になってるわけではないです。
あまりイチャイチャベタベタもしてないし。
今回は作中で時間が過ぎていきますが、どのあたりのことかはわかると思います。
(だいたい、私が書く話は時期がわかる)
前にも書いてますが、このツバサナSSは新作ではないです。
以前、二次創作サイトに置いてあったものをブログに再投稿してるだけで、書いたのは10年前です。びっくりだよ。最終更新日が2006年だったから。
時代は順番になってるわけではないです。
あまりイチャイチャベタベタもしてないし。
今回は作中で時間が過ぎていきますが、どのあたりのことかはわかると思います。
(だいたい、私が書く話は時期がわかる)
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【白黒つけろ!】
全国大会決勝が終了した三日後のことだった。
「あら、翼くん」
「やあ」
南葛中サッカー部は決勝戦の翌日、埼玉から南葛市に戻ってきていた。
負傷した足と肩の治療のために訪れていた病院を出てきた翼はゆかりと鉢合わせた。
ゆかりは病院の入り口と翼を交互に見て「治療の帰り?」と尋ねる。
そのまま肩を並べて歩き始めた。
家に帰る方向は同じなので自然の成り行きだ。
「しばらくは毎日通院しろって言われてるからね。君は?」
「私はおつかいの帰りよ」
太陽の陽射しが燦燦と降り注ぐ道をゆっくりと歩く。
翼が少しだけ足をひきずっているのを見てゆかりは尋ねた。
「痛みはないの?」
「ああ、もうさほどはね。体重かけるとちょっと痛むくらいかな」
「そう、よかった。心配してたんだから」
「ごめん。いろいろと…」
「私じゃなくて、早苗よ」
「ああ、うん…」
そうだろうな、と翼は思う。
中学に入って以来、ずいぶんとおしとやかになっていたものの、気の強いところは相変わらずだったのだが、あんなに泣いている早苗を見たのは初めてだったから。
「翼くんの心配するのは早苗だけで十分でしょう?」
「え」
翼は隣を歩く自分よりも小柄な少女を見下ろした。
そういえば、ゆかりとはこうしてじっくりと話すことはめったになかったような気がする。
「『翼くん、サッカーができなくなっちゃう』ですって」
「え…」
「試合中、ずーっと泣いてたの。早苗、あなたが試合に出るのを止めなかったでしょう?でもね、やめてくれって、もう試合を止めてくれって、ずっと泣きながら言ってたのよ」
「…」
「男冥利につきるんじゃない?」
いたずらっぽく笑うゆかりは自分よりもずっと大人びていると思う。
「幸せものだと思うわよ~。そんな風に想われるのって」
それくらいわかっているでしょう?
目で尋ねられて翼は微かに視線をそらす。
「うん……」
そんなこと、十分わかっている。
好意を寄せられていることはずっと前からわかっていた。それでも早苗はマネージャーという立場以上には近づいて来ず、一歩ひいたところから見守られていたように思う。
それはきっと自分を困らせないため、夢に向かって走る自分を邪魔しないためで……
「ハッキリしてあげたら?」
「え?」
ゆかりは二三歩前に出てくるりと振り返った。
「翼くんが何考えてるのか、だいたいわかるわよ。こういうことはね、意外と第三者のほうがわかるものなの」
―マネージャー
翼が声をかけるのは必ず早苗だ。早苗と一緒にいると、翼は無意識に早苗のほうを見て声をかける。ゆかりも初めのころはなんで早苗にばかり声かけるのと、ちょっと憤慨したりもした。でも、次第にわかってきたのだ。翼はゆかりに対して冷たい態度をとるわけではない。むしろ石崎たちに接するように友人扱いしてくれる。
しかし、早苗に対しては微妙に違っていた。たぶん、早苗と同じ女の子だからこそ気づいたのだろう。自分に対するのと違い、早苗を呼ぶ声音は柔らかく優しく、見つめる目はほんの少し熱のこもったような甘さを含んでいた。自分の気持ちを抑えるだけで精一杯の早苗は気づきもしていないだろうけど。
「翼くん、私、ちょっと感心しちゃった。翼くんってサッカーサッカーってサッカーのことしか考えてなくって、サッカーさえあれば何もいらないんじゃないかって思ってたのよ」
「なんかそれ、ひどい言われようだな」
「だって、そうとしか思えないんだもの」
あまりの言われように翼は苦笑するしかない。自分ってそんな風に思われてるのかと。
「だからね、女の子にも全然興味なくって、早苗の気持ちは一生報われないのかと思ってたわ。でも………案外、ちゃんと考えてたのね」
本当は伝える気なんて全然ないんでしょう?
「西本さん…」
完全にバレてしまっている。
あと半年で自分は日本を離れる。そんな自分が彼女に何を言えるというのか。自分はまだまだ子どもで、夢を追いかけていくのが精一杯で、彼女の想いを受け止めて包み込めるような余裕はない。だから、待っててほしいなんて言えない。
彼女を縛りつけるようなことはしたくないのだ。
翼が言葉につまるとゆかりは笑った。
「言ったでしょ?周りのほうがよく見えてるときがあるのよ。でも…私は『西本さん』で、早苗は『早苗ちゃん』かぁ。もうこのあたりで誰が特別なのかわかっちゃうわよね」
「…」
「いまさらだとは思うけど、早苗のことを宙ぶらりんに放っておかないで。あなたはそれでもいいんでしょうけどね。『釣った魚に餌をやれ』なんて言わないわ。早苗はそんなこと考えてもいないから。ホント…あの子すごく強いから」
すべての想いを捧げていながらも決して見返りを求めてはいない。
「あの子は、ただ待ってるだけなのよ。一途だからおばあちゃんになるまで一人だったりしてね」
冗談交じりの言葉に翼はそんなことはないと思う。
「そんなことはないだろ。たぶん」
きっといつかは自分よりももっといいやつを見つけて、幸せになるに違いない。サッカーのことだけを考えていた自分が心惹かれるほどの女の子なのだから。
でも、そのとき自分は何かを失うのかもしれないけれど。
「そう?…まあいいけどね。でももしかすると、あなたの目の前でトンビに油揚げ攫われることになるかもしれないわよ」
「え?」
「冗談よ。ホントに冗談。たとえ誰かが好きっていったって、早苗があなた以外の男に目を向けるわけないでしょ」
ゆかりはこのとき確信を持って言った訳ではない。ただの冗談のつもりだった。
だが、後にあんなことが起きるとは思ってもみなかたのだが。
「それじゃ、私はこっちだから」
ちょうど四つ角にきたのでゆかりは自宅方向へ足を向ける。
「ああ、うん」
「それじゃまたね」
「ああ、また」
ゆかりの背中を見送ると、翼は家に向かって歩き出した。
サッカーボールを蹴りたくてうずうずしている。こんな風に気持ちがモヤモヤしているときはサッカーボールを蹴れば全部吹き飛んでしまっていたのに。
でも、我慢のときだ。
このまま悪化させたら本当にサッカーができなくなってしまう。
試合中はそれでもいいと思っていたが、今バカなことはしたくない。
それに…もう泣き顔を見るのはごめんだ。あんな顔で泣く姿をもう二度と見たくない。
好きなんだ。君のことが。でも…………
翼は青い空を見上げた。
その約一ヵ月後。
「大空翼だな?」
朝練の最中、見知らぬ男子生徒に声をかけられた。
「そうだけど。君は?」
「おれはC組の神田幸志」
翼の眉が跳ね上がる。その名前は昨日聞いたばかりである。
「ふん、その様子だと昨日のことは聞いたみたいだな。あの子からか?それともサッカー部のやつらか?…まあいい。放課後、光が丘公園まで来い。…中沢早苗を取られたくなかったらな」
「!」
「あの子はおまえのことが好きだって言ってたぜ。だけど、おまえのほうはどうなんだ?」
「…」
キッと睨みつけると神田はふてぶてしい笑みを浮かべた。
「おれは本気であの子に惚れたんだ。たとえ誰が好きだろうと奪い取ってやる」
―乱暴な人は嫌い
早苗の言葉が蘇る。
あのとき怖い思いでもしたのかもしれない。カバンを持つ手が震えていた。
「…わかった。放課後に光が丘公園だな」
「ああ」
背を向けて校舎に戻っていくのを見届けてくるりと踵を返す。
ぐっと拳を握り締めた。
渡さない。
誰であろうと絶対に渡したりはしない。
早苗の気持ちが問題なのではない。
自分が嫌なのだ。
いままで悩んでいたのがバカみたいだ。
こんなことになるまで気づかないなんて。
彼女を奪われるかもしれない。
そう思った瞬間、嫌だと思う自分がいた。
誰にもとられたくない。
―私には好きな人が…
綺麗な笑顔だった。
清清しくて、すべての想いがこめられているような目で、自分を見ていた。
あの笑顔は自分だけのものだ。
誰であろうと渡したりしない。
翼は決意を込めた瞳で顔をあげた。
どっちにしても、泣くんだ。君は。
想いを告げたとき、目を瞠った早苗は大粒の涙を零した。
「早苗ちゃん?」
慌てた翼はオロオロと手をさ迷わせた。
早苗のハンカチは自分が汚してしまった。後ろポケットに入っている自分のハンカチを取り出そうとしたのだが、慌ててしまって取り出せない。
「ごめんなさい…」
早苗は懸命に涙を拭うと、涙の残る瞳のまま微笑んだ。
「私も…私も翼くんが好きです……ずっと…初めて会ったときから…ずっと…」
「早苗もたいしたもんだわよ。初恋を実らせちゃうんだから」
中沢家のリビングでゆかりは招待状の準備をせっせと手伝っていた。
テーブルをはさんだ向かい側では、親友の婚約者が招待客のリストとにらめっこしている。
「ねぇ、翼くん」
「え、何?」
「ハッキリさせておいてよかったでしょ?」
あの夏の日の会話のことだ。
後押ししてくれたのは後輩の久美だけれど、あの会話がなかったら自分の気持ちに自信がつかなかっただろう。
「うん…そうだね。西本さんには感謝してる」
「いいえ、どういたしまして」
あの日、告白していなかったら、今の自分たちはなかったかもしれない。いや、それどころか翼自身はサッカーを続けながらも虚しさを感じていたかもしれない。一番応援してほしい人の声を失っていたのかもしれないのだから。
「何?なんの話?」
台所から早苗が紅茶の入ったカップを持ってくる。
「私と翼くんだけの秘密よ」
「えーっ」
早苗は翼の隣に座ると婚約者に目だけで尋ねる。すると翼は軽く首を振っただけでニッコリと笑った。
まったくもう、この二人は。
ゆかりは苦笑する。
「はいはい、二人だけの世界に行くのは私が帰ってからにしてね」
「あ、そんなつもりじゃ…」
そのとき、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「おお~い、来たぞ~」
「来たわね。あのノロマ」
ゆかりは勝手知ったる他人の家とばかりに、玄関に出て行く。
玄関でぎゃあぎゃあと騒いでいる声が聞こえて、翼と早苗は同時に吹きだした。
「さて、もうひとがんばりしましょうか」
「うん」
暖かな春の風がリビングのカーテンを揺らす。
二人が永遠を誓い合うのは、もう少し先………
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