管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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まだまだ暑い日が続く八月下旬のある日のことだ。
大空家から程近い公園で、翼は弟の大地と一緒にサッカーボールを蹴っていた。
昨日、ワールドユースアジア予選を終えて帰国したばかりで、今日は一日ゆっくり休んで疲れをとろうと思っていた。
だが、弟の大地は兄の翼が帰ってきて、しばらくは一緒に暮らせると知っておおはしゃぎしていた。
数度しか顔を会わせていないが、サッカーが大好きな大地にとっては翼はヒーローそのものだ。翼も長くは一緒にいられないということもあって、なるべくその埋め合わせをしようと思い、サッカーの練習相手になってやろうと公園まで出かけることにしたのだ。
「ほら、大地!こっちだ!」
「あっ!」
翼は自分の周りをちょこまかと動く弟を軽くあしらうようにボールをあやつる。
ブラジルでもよく小さな子ども相手に遊んだことがあるので慣れているのだが、自分の弟ながらボールに対する反応速度の速さに驚く。
「翼くん、そろそろ休憩にしない?」
それまで木陰にあるベンチに座っていた早苗が声をかける。
「え、もう?」
目を丸くして振り返った翼に、早苗は苦笑する。
「翼くんは平気だろうけど、大地くんがバテちゃってるから」
見下ろすと大地が地面にへたりこんでいる。
顔中汗だくだ。
「うわ、大地、大丈夫か?」
慌てて大地を抱き上げて、早苗の元に連れて行く。
「はい、大地くん。冷たいおしぼりで顔を拭いて、さっぱりしましょう?」
早苗は用意してきた保冷バッグからおしぼりをとりだして大地に手渡した。
「翼くんも」
「ありがとう」
おしぼりを受け取った翼は、それを広げて自分の顔を拭いた。
疲れてはいないが、やはりこの暑さだ。多少の汗はかいていた。
それを見上げていた大地は翼の真似をするように自分の顔を拭く。
「さっぱりした?」
「うん、さっぱりしたー!」
大地からおしぼりを受け取ると、早苗は再度大地の額や首筋なども拭く。
微笑みながら大地の世話をやく早苗を見て、翼はドキリとする。
「ジュース飲む?大地くんのお母さんがのど渇いたら飲みなさいってくれたのよ」
「飲む!」
紙パックのオレンジジュースを手渡すと、大地はストローに口をつけた。
「ゆっくり飲むのよ」
「うん」
「……なあに?翼くん」
ベンチに腰掛けた状態で、膝に頬杖をついた体勢で翼が覗き込むように見ていたので、早苗は首を傾げた。
「…なんか…その、おれよりも大地のお姉さんっぽいね」
「そう?うちも弟がいるしね。それに、大地くんは生まれたときから知ってるもの。赤ちゃんのときから時々おばさんのお手伝いでお世話もしたことあるから」
「そっか。やっぱり離れて暮らしてるといろいろとわからないことあるなぁ。それでなくても、ブラジルに渡るまでは一人っ子だったし、兄貴っていう自覚はあんまりないんだよね」
「それでもいいんじゃない?年の離れた友達って思えばいいのかもね」
「あ、そうか」
それならば自然と年上らしく振舞うこともできる。ヘタに兄貴風吹かせるよりはいいだろう。
座っているのにも飽きたのか、大地は再びボールを蹴りだす。
先ほどの翼のボール捌きを覚えているのか、真似しようと必死だ。
「がんばってるがんばってる」
「おれもあんなだったなぁ。巧い選手のプレーを見たら、すぐに真似してどんどん自分のものにしていくんだって」
「あら、翼くんはいまでもそうじゃない。……でも、翼くんも大地くんくらいのころはあんな感じだったのかしらね」
「さあ、どうなんだろう?さすがに覚えてないなぁ」
「私ね、大地くんが生まれたとき、翼くんもこんな感じだったのかなぁ?って思ったの。翼くんがちっちゃなころを見てるみたいで嬉しいな」
早苗は大地から目を離さずに言う。
「うーん、でもおれにはサッカーを一緒にやってくれるお兄ちゃんはいなかったからなぁ」
「そうだったわね。でも、そう考えると大地くんのほうが恵まれてるのかしら?サッカーが盛んな街に生まれて、サッカーを一緒にやってくれる優しいお兄さんがいるんだものね……。で、どうですか、翼選手?弟さんのサッカーをご覧になって、何か感じることはありますか?」
後半部分はまるでインタビューをする記者のような口調になった早苗は、マイクを差し出すような真似事をした。
翼も笑いながらそれにのる。
「そうですね。同じ年頃の子たちと比べるとレベルが違いすぎますね。小学生相手でもいけるんじゃないでしょうか。我が弟ながら将来が楽しみです……なんてね」
二人は顔を見合わせるとクスクスと笑う。
するとそこへ大地が戻ってきた。
「あら、どうしたの?もう疲れちゃった?」
大地はううんと首を振ると、翼と早苗の間に割って入るように座った。
ぷーっと頬を膨らませるとボールを抱え込んだまま俯く。
「…」
「…」
そんな大地を見下ろした二人は一体なんだ?と首を傾げる。
「ヤキモチじゃないの?」
「どっちに?」
さあ?と早苗は首を傾げる。
そこへベビーカーを押した若い女性が通りかかった。
「あら、随分と若いパパとママね~。いいわね、ボク。パパとママに遊んでもらって」
「え!?」
「ち、違います!」
「おれの弟ですよ」
「あらっ、そうだったの?そうよねぇ、よく見るとあなたたち、どう見たって二十歳くらいよね?ごめんなさいね」
「いえ」
女性が立ち去ってから、翼はため息をついて苦笑した。
「パパとママ、だって…」
勘違いとはいえ、そんな風に評されるとなんだか照れくさいなぁと思っていると、早苗が眉根を寄せていた。
「どうしたの?」
「翼くん…私、そんなに年増に見える!?」
「え?」
「私って、子どもがいるような年に見えるかって聞いてるのよ!」
どうやら早苗は「パパとママ」と言われたことに、別の意味でショックを受けたようだ。
「い、いや。ほら、あの人だって、よく見ると二十歳くらいだって言ってたじゃないか」
「だから、パッと見た瞬間はけっこう年とってるって思われたってことじゃないの!」
「違うと思うけどなぁ。たぶん、大地がいたからだよ。おれにそっくりだし。こうして座ってたら親子みたいに見えたってことじゃないかな」
「……そう、かしら?」
「そうだよ」
なんとか納得した様子の早苗にホッと一息ついた。
その翼のシャツの袖を大地が引っ張る。
「兄ちゃん」
「ん?なんだ?」
「サッカーしようよ」
かまってくれといっている大地の目を見て、翼はプッとふきだした。
夕方になってようやく子守り(?)から解放された二人は、中沢家への道を歩いていた。
「ワールドユースはどうなるのかしら?」
「まだわからないみたいだよ。サッカー協会からはなんの連絡もないし、中止だってはっきり通達が出るまではおれたちも準備を怠るわけにはいかないって皆と連絡をとったんだ。とりあえず、明日からは合宿までは調整を兼ねて自主トレしようってことになってね。おれは石崎くんや岬くんたちと南葛高で練習させてもらうことにしたよ」
「そうなの?…じゃあ、私もお手伝いしに行ってもいい?」
「え?そりゃあ、おれは助かるけど…でも、いいのかな?」
「大丈夫よ。お忘れかもしれないけど、南葛高は私の母校よ。サッカー部の監督だって知ってるし、後輩だっているんだもの」
「そうか、そうだったよね」
家の前まで来ると、それじゃ明日十時にね、と言う。
「送ってくれてありがとう」
「うん、それじゃ……っと、早苗ちゃん」
「え?」
顔をあげた早苗はゆっくりと目を閉じた。
いくぶん頬を赤くして目を開けた早苗の耳元に唇を寄せて翼は囁く。
「大地がいると、できないからね」
まだまだ暑い日が続く八月下旬のある日のことだ。
大空家から程近い公園で、翼は弟の大地と一緒にサッカーボールを蹴っていた。
昨日、ワールドユースアジア予選を終えて帰国したばかりで、今日は一日ゆっくり休んで疲れをとろうと思っていた。
だが、弟の大地は兄の翼が帰ってきて、しばらくは一緒に暮らせると知っておおはしゃぎしていた。
数度しか顔を会わせていないが、サッカーが大好きな大地にとっては翼はヒーローそのものだ。翼も長くは一緒にいられないということもあって、なるべくその埋め合わせをしようと思い、サッカーの練習相手になってやろうと公園まで出かけることにしたのだ。
「ほら、大地!こっちだ!」
「あっ!」
翼は自分の周りをちょこまかと動く弟を軽くあしらうようにボールをあやつる。
ブラジルでもよく小さな子ども相手に遊んだことがあるので慣れているのだが、自分の弟ながらボールに対する反応速度の速さに驚く。
「翼くん、そろそろ休憩にしない?」
それまで木陰にあるベンチに座っていた早苗が声をかける。
「え、もう?」
目を丸くして振り返った翼に、早苗は苦笑する。
「翼くんは平気だろうけど、大地くんがバテちゃってるから」
見下ろすと大地が地面にへたりこんでいる。
顔中汗だくだ。
「うわ、大地、大丈夫か?」
慌てて大地を抱き上げて、早苗の元に連れて行く。
「はい、大地くん。冷たいおしぼりで顔を拭いて、さっぱりしましょう?」
早苗は用意してきた保冷バッグからおしぼりをとりだして大地に手渡した。
「翼くんも」
「ありがとう」
おしぼりを受け取った翼は、それを広げて自分の顔を拭いた。
疲れてはいないが、やはりこの暑さだ。多少の汗はかいていた。
それを見上げていた大地は翼の真似をするように自分の顔を拭く。
「さっぱりした?」
「うん、さっぱりしたー!」
大地からおしぼりを受け取ると、早苗は再度大地の額や首筋なども拭く。
微笑みながら大地の世話をやく早苗を見て、翼はドキリとする。
「ジュース飲む?大地くんのお母さんがのど渇いたら飲みなさいってくれたのよ」
「飲む!」
紙パックのオレンジジュースを手渡すと、大地はストローに口をつけた。
「ゆっくり飲むのよ」
「うん」
「……なあに?翼くん」
ベンチに腰掛けた状態で、膝に頬杖をついた体勢で翼が覗き込むように見ていたので、早苗は首を傾げた。
「…なんか…その、おれよりも大地のお姉さんっぽいね」
「そう?うちも弟がいるしね。それに、大地くんは生まれたときから知ってるもの。赤ちゃんのときから時々おばさんのお手伝いでお世話もしたことあるから」
「そっか。やっぱり離れて暮らしてるといろいろとわからないことあるなぁ。それでなくても、ブラジルに渡るまでは一人っ子だったし、兄貴っていう自覚はあんまりないんだよね」
「それでもいいんじゃない?年の離れた友達って思えばいいのかもね」
「あ、そうか」
それならば自然と年上らしく振舞うこともできる。ヘタに兄貴風吹かせるよりはいいだろう。
座っているのにも飽きたのか、大地は再びボールを蹴りだす。
先ほどの翼のボール捌きを覚えているのか、真似しようと必死だ。
「がんばってるがんばってる」
「おれもあんなだったなぁ。巧い選手のプレーを見たら、すぐに真似してどんどん自分のものにしていくんだって」
「あら、翼くんはいまでもそうじゃない。……でも、翼くんも大地くんくらいのころはあんな感じだったのかしらね」
「さあ、どうなんだろう?さすがに覚えてないなぁ」
「私ね、大地くんが生まれたとき、翼くんもこんな感じだったのかなぁ?って思ったの。翼くんがちっちゃなころを見てるみたいで嬉しいな」
早苗は大地から目を離さずに言う。
「うーん、でもおれにはサッカーを一緒にやってくれるお兄ちゃんはいなかったからなぁ」
「そうだったわね。でも、そう考えると大地くんのほうが恵まれてるのかしら?サッカーが盛んな街に生まれて、サッカーを一緒にやってくれる優しいお兄さんがいるんだものね……。で、どうですか、翼選手?弟さんのサッカーをご覧になって、何か感じることはありますか?」
後半部分はまるでインタビューをする記者のような口調になった早苗は、マイクを差し出すような真似事をした。
翼も笑いながらそれにのる。
「そうですね。同じ年頃の子たちと比べるとレベルが違いすぎますね。小学生相手でもいけるんじゃないでしょうか。我が弟ながら将来が楽しみです……なんてね」
二人は顔を見合わせるとクスクスと笑う。
するとそこへ大地が戻ってきた。
「あら、どうしたの?もう疲れちゃった?」
大地はううんと首を振ると、翼と早苗の間に割って入るように座った。
ぷーっと頬を膨らませるとボールを抱え込んだまま俯く。
「…」
「…」
そんな大地を見下ろした二人は一体なんだ?と首を傾げる。
「ヤキモチじゃないの?」
「どっちに?」
さあ?と早苗は首を傾げる。
そこへベビーカーを押した若い女性が通りかかった。
「あら、随分と若いパパとママね~。いいわね、ボク。パパとママに遊んでもらって」
「え!?」
「ち、違います!」
「おれの弟ですよ」
「あらっ、そうだったの?そうよねぇ、よく見るとあなたたち、どう見たって二十歳くらいよね?ごめんなさいね」
「いえ」
女性が立ち去ってから、翼はため息をついて苦笑した。
「パパとママ、だって…」
勘違いとはいえ、そんな風に評されるとなんだか照れくさいなぁと思っていると、早苗が眉根を寄せていた。
「どうしたの?」
「翼くん…私、そんなに年増に見える!?」
「え?」
「私って、子どもがいるような年に見えるかって聞いてるのよ!」
どうやら早苗は「パパとママ」と言われたことに、別の意味でショックを受けたようだ。
「い、いや。ほら、あの人だって、よく見ると二十歳くらいだって言ってたじゃないか」
「だから、パッと見た瞬間はけっこう年とってるって思われたってことじゃないの!」
「違うと思うけどなぁ。たぶん、大地がいたからだよ。おれにそっくりだし。こうして座ってたら親子みたいに見えたってことじゃないかな」
「……そう、かしら?」
「そうだよ」
なんとか納得した様子の早苗にホッと一息ついた。
その翼のシャツの袖を大地が引っ張る。
「兄ちゃん」
「ん?なんだ?」
「サッカーしようよ」
かまってくれといっている大地の目を見て、翼はプッとふきだした。
夕方になってようやく子守り(?)から解放された二人は、中沢家への道を歩いていた。
「ワールドユースはどうなるのかしら?」
「まだわからないみたいだよ。サッカー協会からはなんの連絡もないし、中止だってはっきり通達が出るまではおれたちも準備を怠るわけにはいかないって皆と連絡をとったんだ。とりあえず、明日からは合宿までは調整を兼ねて自主トレしようってことになってね。おれは石崎くんや岬くんたちと南葛高で練習させてもらうことにしたよ」
「そうなの?…じゃあ、私もお手伝いしに行ってもいい?」
「え?そりゃあ、おれは助かるけど…でも、いいのかな?」
「大丈夫よ。お忘れかもしれないけど、南葛高は私の母校よ。サッカー部の監督だって知ってるし、後輩だっているんだもの」
「そうか、そうだったよね」
家の前まで来ると、それじゃ明日十時にね、と言う。
「送ってくれてありがとう」
「うん、それじゃ……っと、早苗ちゃん」
「え?」
顔をあげた早苗はゆっくりと目を閉じた。
いくぶん頬を赤くして目を開けた早苗の耳元に唇を寄せて翼は囁く。
「大地がいると、できないからね」
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