管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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「洗面用具はここに入れておくわね」
「うん」
寝室で床に座り込んだ早苗が翼の遠征用のバッグに着替えなどを詰め込む。
翼はパジャマ姿でベッドの上に胡座をかき、サッカーボールを弄びながらそれを眺めていた。
結婚してから、というか、その前にヨーロッパのクラブの視察のための婚前旅行のときに気づいたのだが、早苗は荷物のまとめ方が上手い。
中学時代からあちこちの大会に出場するための遠征が多かったため、荷物を小さくまとめるためにいろいろと工夫をしてきたのだという。
翼もサンパウロFC時代から遠征には慣れているので準備くらい自分でできるのだが、いまでは完全に早苗におまかせ状態だ。
初めは家事など家のことはすべてまかせきりというのは悪いので、これくらいは自分でやると言っていたのだが、早苗が頑としてゆずらなかった。「だって、こうして準備していると奥さんって感じがするんだもの」と嬉しそうに言われたら、手を出すことができなくなってしまった。
「予備の着替えは一番下に入れてあるから」
「うん。でも、二、三日のことだから大丈夫だよ」
「そうね」
翼はベッドから降りて早苗に近づくと、小さな背中を背後から抱きしめた。
「翼くん?」
強すぎないように、でもしっかりと抱え込むように深く抱きしめる。
「気をつけてね」
「やだ、それは私のセリフでしょう?」
早苗はクスクスと笑って、胸元に回された夫の腕をポンポンと叩いた。
「だって、心配なんだよ」
早苗の妊娠が判明してから初めてのアウェーでの試合だ。これから数日間、翼は自宅に戻ってこれない。
それ以前だってアウェーでの試合は当然あったし、そのたびに一人で残る早苗のことを心配はしていたが、このたびは度合いが違う。
本当に気をつけてほしいと思う。
季節はもう初冬で、日本ほどではないにしろ朝晩は冷え込むようになって体調管理が難しくなってくる。風邪なんてひいたら大変だ。
外出も極力控えてもらいたいと思うのはわがままだろうか。
食事の仕度があるから、買い物に出ないわけにはいかないのだが。
「もしもおれがいない間に少しでも体調がおかしいと思ったら、病院に行くんだよ」
「はい。わかってます」
翼の心配はわかるので、早苗は素直に頷く。自分としても、翼がいない間はあまり無茶なことはしたくない。
「それから、そういうときは遠慮しないでおれに連絡いれること」
「はい」
「絶対だよ。もしもおれに気をつかったりしたら怒るからね」
「うん…」
早苗は頷いて斜め下から翼を仰ぎ見る。
「でも、翼くんも無茶はしないでね。もしも翼くんが怪我をしたら…心配で倒れちゃうかも」
「わ、わかったよ。努力はするから」
そう返事して、抱きしめていた腕を下におろす。
「やだ、くすぐったいわよ」
そろそろと早苗の腹部を撫でると、撫でられた本人はくすぐったそうに身をよじる。
「だって、ここに赤ちゃんがいるんだろ?そっとしないと潰れちゃうじゃないか」
「そうだけど…」
「でも、まだ全然大きくないね」
服の上からでも早苗の腹部はまったく膨らんでいない。
街で妊婦を見かけることはあっても、そのお腹の大きさを見てもいますぐ生まれそうというような人ばかりに見えるのだが。
そうして考えてみると、早苗のように妊娠したばかりという女性もいるのかもしれない。女の人ってホントに大切にしないといけないよな、などと翼は殊勝なことを思うのだった。
「う~ん、まだじゃないかしら。きっとこの中では少しずつ大きくなってると思うのよね。でも、そのせいかはわからないんだけど、ついつい自分が妊娠してること忘れそうになっちゃって…」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
翼は慌てふためく。
自分は毎日気をつけて見ているというのに、妊娠している本人に自覚がないというのはどういうことだ!?と青ざめた。
「忘れるなよ!大事な体なんだから!」
「わ、わかってるわよ。だから、ちゃんと気をつけて動いてますってば」
めったに怒らない翼に怒られたので、早苗は居心地悪そうに身をよじった。
「あーもう…」
翼は少し力をこめて抱きしめた。
「早苗ちゃんが無茶しないように、どこへ行くにも連れていこうかな」
「えーっ!?」
「えーっ、じゃないよ。そのほうがおれは安心する」
「翼くんってば心配性ね」
「そうさせてるのはどこの誰でしょうか?」
「ごめんなさい」
早苗は肩をすくめて謝ると、大きく息をつくと翼に体重を預けるように寄りかかる。
「充電させてね」
「ん?」
「翼くんがいない間、元気でいられるように」
「じゃあ、おれも」
翼は早苗のあごに指をかけて上向かせると、軽く唇を押し当てる。
くすぐったそうに微笑んだ早苗は、「そうそう忘れてた」と言った。
「まだ早いかもしれないけど、考えておいてね」
「え、何を?」
「赤ちゃんの名前よ。U-22の招聘もあったらオリンピック予選もあるんだし、忙しくて考えてる時間もないかもしれないじゃない?余裕があるときに考えておいたほうがいいと思うのよ」
「う、うん…そうだね」
すっかり忘れてた、と翼は言いそうになった。赤ちゃんが無事に生まれてくるようにとそのことばかり考えていて、生まれてからのことを考えてはいなかった。といっても、この時点では気が早すぎるとしか言いようはないのだが。
そんな考えを見透かしたように、早苗は翼をジトリと睨みつけて言った。
「翼くんはのんきなんだし、日本代表に選ばれたらそっちに集中しちゃうだろうから、とりあえず考えておいてほしいのよ。……なんだったら、私が考えるか、うちのお父さんにお願いするけど?それとも大空のお義父さんにお願いしちゃう?」
「い、いや、大丈夫。おれが考えるから。うん……移動の間とかに考えておくよ」
いくつか考えておかないといけないだろう。早苗の意見も聞きたいことだし。
いい名前をつけてやりたいと思う。翼自身、自分の名前をすごく気に入っているし、名づけてくれた父親にも感謝しているので自分もそうありたいと思っているのだ。
早苗はにっこりと微笑んで安心したように身を預けた。
「お願いね。パパ」
微笑む妻を愛しく思い、翼はもう一度抱きしめた。
「洗面用具はここに入れておくわね」
「うん」
寝室で床に座り込んだ早苗が翼の遠征用のバッグに着替えなどを詰め込む。
翼はパジャマ姿でベッドの上に胡座をかき、サッカーボールを弄びながらそれを眺めていた。
結婚してから、というか、その前にヨーロッパのクラブの視察のための婚前旅行のときに気づいたのだが、早苗は荷物のまとめ方が上手い。
中学時代からあちこちの大会に出場するための遠征が多かったため、荷物を小さくまとめるためにいろいろと工夫をしてきたのだという。
翼もサンパウロFC時代から遠征には慣れているので準備くらい自分でできるのだが、いまでは完全に早苗におまかせ状態だ。
初めは家事など家のことはすべてまかせきりというのは悪いので、これくらいは自分でやると言っていたのだが、早苗が頑としてゆずらなかった。「だって、こうして準備していると奥さんって感じがするんだもの」と嬉しそうに言われたら、手を出すことができなくなってしまった。
「予備の着替えは一番下に入れてあるから」
「うん。でも、二、三日のことだから大丈夫だよ」
「そうね」
翼はベッドから降りて早苗に近づくと、小さな背中を背後から抱きしめた。
「翼くん?」
強すぎないように、でもしっかりと抱え込むように深く抱きしめる。
「気をつけてね」
「やだ、それは私のセリフでしょう?」
早苗はクスクスと笑って、胸元に回された夫の腕をポンポンと叩いた。
「だって、心配なんだよ」
早苗の妊娠が判明してから初めてのアウェーでの試合だ。これから数日間、翼は自宅に戻ってこれない。
それ以前だってアウェーでの試合は当然あったし、そのたびに一人で残る早苗のことを心配はしていたが、このたびは度合いが違う。
本当に気をつけてほしいと思う。
季節はもう初冬で、日本ほどではないにしろ朝晩は冷え込むようになって体調管理が難しくなってくる。風邪なんてひいたら大変だ。
外出も極力控えてもらいたいと思うのはわがままだろうか。
食事の仕度があるから、買い物に出ないわけにはいかないのだが。
「もしもおれがいない間に少しでも体調がおかしいと思ったら、病院に行くんだよ」
「はい。わかってます」
翼の心配はわかるので、早苗は素直に頷く。自分としても、翼がいない間はあまり無茶なことはしたくない。
「それから、そういうときは遠慮しないでおれに連絡いれること」
「はい」
「絶対だよ。もしもおれに気をつかったりしたら怒るからね」
「うん…」
早苗は頷いて斜め下から翼を仰ぎ見る。
「でも、翼くんも無茶はしないでね。もしも翼くんが怪我をしたら…心配で倒れちゃうかも」
「わ、わかったよ。努力はするから」
そう返事して、抱きしめていた腕を下におろす。
「やだ、くすぐったいわよ」
そろそろと早苗の腹部を撫でると、撫でられた本人はくすぐったそうに身をよじる。
「だって、ここに赤ちゃんがいるんだろ?そっとしないと潰れちゃうじゃないか」
「そうだけど…」
「でも、まだ全然大きくないね」
服の上からでも早苗の腹部はまったく膨らんでいない。
街で妊婦を見かけることはあっても、そのお腹の大きさを見てもいますぐ生まれそうというような人ばかりに見えるのだが。
そうして考えてみると、早苗のように妊娠したばかりという女性もいるのかもしれない。女の人ってホントに大切にしないといけないよな、などと翼は殊勝なことを思うのだった。
「う~ん、まだじゃないかしら。きっとこの中では少しずつ大きくなってると思うのよね。でも、そのせいかはわからないんだけど、ついつい自分が妊娠してること忘れそうになっちゃって…」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
翼は慌てふためく。
自分は毎日気をつけて見ているというのに、妊娠している本人に自覚がないというのはどういうことだ!?と青ざめた。
「忘れるなよ!大事な体なんだから!」
「わ、わかってるわよ。だから、ちゃんと気をつけて動いてますってば」
めったに怒らない翼に怒られたので、早苗は居心地悪そうに身をよじった。
「あーもう…」
翼は少し力をこめて抱きしめた。
「早苗ちゃんが無茶しないように、どこへ行くにも連れていこうかな」
「えーっ!?」
「えーっ、じゃないよ。そのほうがおれは安心する」
「翼くんってば心配性ね」
「そうさせてるのはどこの誰でしょうか?」
「ごめんなさい」
早苗は肩をすくめて謝ると、大きく息をつくと翼に体重を預けるように寄りかかる。
「充電させてね」
「ん?」
「翼くんがいない間、元気でいられるように」
「じゃあ、おれも」
翼は早苗のあごに指をかけて上向かせると、軽く唇を押し当てる。
くすぐったそうに微笑んだ早苗は、「そうそう忘れてた」と言った。
「まだ早いかもしれないけど、考えておいてね」
「え、何を?」
「赤ちゃんの名前よ。U-22の招聘もあったらオリンピック予選もあるんだし、忙しくて考えてる時間もないかもしれないじゃない?余裕があるときに考えておいたほうがいいと思うのよ」
「う、うん…そうだね」
すっかり忘れてた、と翼は言いそうになった。赤ちゃんが無事に生まれてくるようにとそのことばかり考えていて、生まれてからのことを考えてはいなかった。といっても、この時点では気が早すぎるとしか言いようはないのだが。
そんな考えを見透かしたように、早苗は翼をジトリと睨みつけて言った。
「翼くんはのんきなんだし、日本代表に選ばれたらそっちに集中しちゃうだろうから、とりあえず考えておいてほしいのよ。……なんだったら、私が考えるか、うちのお父さんにお願いするけど?それとも大空のお義父さんにお願いしちゃう?」
「い、いや、大丈夫。おれが考えるから。うん……移動の間とかに考えておくよ」
いくつか考えておかないといけないだろう。早苗の意見も聞きたいことだし。
いい名前をつけてやりたいと思う。翼自身、自分の名前をすごく気に入っているし、名づけてくれた父親にも感謝しているので自分もそうありたいと思っているのだ。
早苗はにっこりと微笑んで安心したように身を預けた。
「お願いね。パパ」
微笑む妻を愛しく思い、翼はもう一度抱きしめた。
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