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今日は半日ほどかけて「身代わり伯爵」シリーズのSSを書いてました。
カップリングはもちろんリヒャルト×ミレーユです。
このカップルはホントに大好きだ!
イチャイチャしているところを読むともっとイチャイチャしろ!とすら思ってしまう。
というわけではないですが、イチャイチャさせるのにホントに苦労した。
「身代わり伯爵」シリーズの二次創作SSです。
好評ならもっと書くかもしれないです。
======7日22時すぎ追記======
日付が変わるころに、眠気と戦いながら投稿したので説明不足でしたね(汗)
「身代わり伯爵」シリーズ既刊14巻全て読了してないと意味不明な部分もあります。
要するに、ネタバレ全開ですのでそのつもりで読んでください。
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続きからどうぞ。
ちょっと長めのSSなのでご注意ください。
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【甘い言葉にご用心】
――そろそろ限界なんです――
婚約式も無事に終ったある日。
ミレーユは婚約者に呼び出された。
呼び出されたというよりはお茶会の席に招待されたというべきか。
天気もいいからと庭園内の四阿に設けられた席にはさまざまな種類の焼き菓子やチョコレート菓子が並べられている。
「わあ、どうしたの、これ? こんなにたくさん!」
思わず感嘆の声をあげてしまったミレーユは傍に控えていた大公の侍従長に睨まれて首をすくめる。
しかしそんなミレーユの素振りに気にした様子もなく、先に来て待っていたシアラン大公エセルバートことリヒャルトは立ち上がって彼女の手を取り紳士的に椅子に座らせた。
「公都で有名な菓子店のいくつかからあなたの好きそうなものを取り寄せたんですよ」
ミレーユの向かい側ではなく、すぐ隣の椅子に腰を降ろしたリヒャルトは皿に並べられている菓子の一つをつまんで差し出した。
「どうぞ、ミレーユ」
「ありがとう」
穏やかな笑顔で差し出されたそれを受け取ろうと手を出すとやんわりとおさえられた。
「だめですよ。口を開けて」
「へ? ……あ、い、いえ、いいわ! ちゃんと自分で食べるから!」
「まーっ! 若君お手ずからミレーユ様に食べさせてあげられる趣向なんですわね! すばらしいですわー!」
アンジェリカは手帳を取り出すと必死になって書き込み始める。
ミレーユは慌てて首を振った。
ミレーユ付きの侍従であるロジオンやアンジェリカ、護衛の騎士たちの目もあり、おまけに大公に食べさせてもらうなんて淑女らしくない、大公妃らしい行動をとルドヴィックに文句を言われそうだと思うとそんな軽々しく振舞えない。
そう考えながらも言動はまったくもって淑女らしくないのだが、そこまで頭を働かせる余裕がミレーユにはなかった。
するとリヒャルトは一瞬だけ困ったような顔をしたが手をひっこめず、ミレーユの口に菓子を放りこんだ。
口に入れられた反動でもぐもぐと口を動かすミレーユにリヒャルトはにこにこと微笑む。
「おいしいですか?」
「うん」
「そんなことを言わないで。俺の手であなたの可愛い口にお菓子を入れるのが楽しいんですから。俺の楽しみを奪わないでください」
「う……」
そういえば以前にもそんなことを言われた気がする。
「アルテマリスにいたときのように、いつでもあなたの傍にいてあなたに食べさせてあげられたらと思うのですがそれもできなくて、そろそろ限界なんです」
リヒャルトはそう言いながら別の皿の菓子をつまんだ。
「だから、俺のことを思ってくれるなら、今だけは俺の我がままに付き合ってください」
「そんな、こんなことちっとも我がままじゃないわ! あなたはもっと我がまま言ったっていいくらいなのよ!? いつだってみんなのためにって我慢して頑張ってるんだからこれくらい!」
ミレーユはガッと拳を握った。
「わかったわ! 今日はあなたを楽しませるためにしっかりと食べさせてもらうから!」
いらだたしげにルドヴィックが咳をしたが、今は無視することにする。皆を幸せにするために頑張っている大公のためではなく、好きな人のためならば後でお説教くらいどうということはない。
「よかった。じゃあ次はこれをどうぞ」
次の菓子を口に入れられてしっかりと噛み砕いて飲み込む。
「おいしいですか?」
「うん」
しかし、とテーブルの上に並べられた菓子を眺めやる。
こんなことならば…
「持ってこなくてもよかったわよね」
「え、何をです?」
「あ、ううん、なんでもないの!」
こんなにおいしくて可愛らしく飾られた菓子たちに比べたら、自分が持ってきたものなんて薔薇と雑草くらいの差がある。
なんでもないと言いながらも急に落ち込んでしまったミレーユをリヒャルトは心配そうに見た。
「ミレーユ? どうかしたんですか?」
「若君、よろしければこちらを」
いつのまにか近くに寄ってきていたロジオンが差し出した包みを見たミレーユは慌てた。
「だ、だめよ、ロジオン! それは!」
「クッキー…ですか?」
ロジオンから受け取った包みを開けたリヒャルトは中身を見ると、そこには丸いクッキーがたくさん入っていた。
そのクッキーは薬草のような香りがした。よく見ると何か混ぜられている。
「ミレーユ様自ら若君のために焼かれたクッキーです」
ロジオンはそれだけ言うと一歩下がった。
「これを…俺のために?」
まじまじとクッキーを見つめ、そして自分を見つめてくる鳶色の瞳に喜色が浮かんでくるのを見て、ミレーユは頬が熱くなった。
「べ、別にお茶会に呼ばれたから用意したわけじゃないの! 薬草茶もいろいろと効能は試してるんだけど、お茶だけじゃなくて他のお料理にももっと薬草を使えないかと思ったら、ロジオンがお菓子に使えるものもあるって教えてくれたから、クッキーならお仕事の間にも食べられるんじゃないかと思ったの。でも…」
チラリとテーブルの上の色とりどりの可愛らしい形の菓子を見る。
「こんなただ焼いただけのクッキーよりも、ちゃんとしたお店で買ったお菓子のほうがおいしいわよね! これはもういいの! あとでパパやフレッドに食べてもらうから!」
返してもらおうと手を延ばすとリヒャルトはその包みを高く持ち上げた。
「だめです。これは俺のものです。あなたが俺のためだけに焼いてくれたものだから」
「でも、おいしくないかもしれないもの」
「おいしいに決まってますよ。だって俺のために作ってくれたんでしょう?」
どういう理屈だと思ったが、嬉しそうに笑うリヒャルトに喜んでもらえるならいいかと思った。
リヒャルトがミレーユに対してそう思うように、ミレーユだってリヒャルトに喜んでもらったり楽しんでもらったりするほうが嬉しいのだ。
「じゃあ食べてもいいですか?」
「う、うん、どうぞ。おいしくないかもしれないけど」
そういいつつもミレーユはリヒャルトの長い指がクッキーをつまむのをドキドキしながらじっと見つめた。
「お待ちください」
それまで成り行きを見ていたルドヴィックがいきなり割って入った。
「なんだ、ルドヴィック」
邪魔されたとでも思ったのか、リヒャルトは一瞬不機嫌そうな顔になって振り返った。
「殿下が召し上がられる前にお毒見をさせていただきます」
「なっ……」
「ルドヴィック! 失礼なことを言うな!」
「あ、あた…わたしがリヒャ…殿下に毒を盛るとでも言うの!?」
その場にいた侍従長以外のお付きの者や護衛官たちは何を言い出すのかと目を丸くする。
大公とその婚約者両方から怒りを向けられても、大公家第一の侍従長は表情を変えずに咳払いした。
「勘違いしないでください。あなたのことは微塵も疑っておりません」
「え…そうなの?」
「はい。あなたの言動はいまだに大公妃らしくないと思っていますが、大公殿下に対してそのようなことをする方ではないと思っています。ですが、どのような経緯で毒が混入するかわかりません。そのことをお考えください。念のためお尋ねしますが、あなたはこのクッキーを召し上がりましたか?」
ルドヴィックが懸念していることを理解したリヒャルトはハッとしてミレーユを見た。
ミレーユが作っている最中に毒が盛られなくても、それ以前はどうだろうか、もしくはその後は?
もしミレーユが味見として一口でも口にしていたら?
だがミレーユは首を振った。
「あた…わたしは味覚にあまり自信がないの。でも、殿下にまずいものを食べさせちゃいけないと思って、ロジオンに味見をしてもらったんだけど……いけなかった?」
その答えにルドヴィックは満足げに頷いた。
「ならばいいでしょう。ロジオン、何も問題はなかったな?」
ロジオンが何の症状も見せず、いつも通りの表情でいるのは確かだが、それでも確認するように訊ねた。
「はい。…若君、申し訳ありませんでした」
突然膝をついて謝ったロジオンにミレーユは驚いた。
「ロジオン、いきなり何を謝ってるの!?」
「毒見のつもりはなかったのですが、ミレーユ様が若君のために作られたものを先にいただいてしまいました。申し訳ありませんでした」
「だってそれはあたしが頼んだからでしょう? パンのときみたいにまずいものを食べさせられないもの。でもおいしいって言ってくれたから大丈夫だと思ってたの」
「はい、とてもおいしかったです」
ロジオンは無表情ながらもしっかりと頷くと今度こそ後ろまで下がっていった。
「だからね、リヒャルト、ロジオンを怒らないであげて」
「これくらいのことで怒ったりしませんよ」
苦笑したリヒャルトはミレーユの手をとって指先に口づけた。
「ただ、あなたがこの可愛らしい手で作ってくれたものを一番に食べられなかったのは残念ですけどね」
「そそっ、それはしょうがないわよ。でも大変ね。あなたが前に言ったとおり、材料まで気をつけないといけないのね」
「そうですね」
ミレーユには言っていないが、このテーブルの上にある菓子類はすべて事前に毒見を済ませてある。
ミレーユ自ら作ってくれたということに気をとられて少し浮かれてしまったようだ。
「では、食べてもいいですか?」
「ど、どうぞ!」
改めて、とクッキーをつまんだリヒャルトに、ミレーユはまるで戦いを挑むかのように言った。
サク、と小気味いい音をたててクッキーを食べる。
「……」
「ど、どう?」
「おいしいですよ。すごく」
普通の褒め言葉しか聞けず、ミレーユはがっかりしたがいやいやと首を振る。
忘れかけていたが、リヒャルトはものすごい味音痴だった。ミレーユの作った食べれば悶絶するようなまずいパンでさえ「不思議な味」と評した彼なのだから。
「いい香りがしますね。焼き加減もいいのかな。なんだかとっても癒されます」
「そっ、そう!? おいしい?」
「ええ」
「あなたは甘いものが苦手だって言ってたから、お砂糖もできるだけ控えめにしてみたのよ」
「はい、俺にはちょうどいいです」
「よかったわ…前に初めてパンを食べてもらったときみたいに『不思議な味』って言われたらどうしようかと思った」
「そんなこと……いえ、失礼かとは思いますが、あのときとは全然味が違いますよ。本当においしいです」
「そ、それならいいのよ。よかった、喜んでもらえて」
爽やかな笑顔で見つめられて、ミレーユは照れたのを誤魔化すようにお茶のはいったカップを手に取った。
「あなたの愛を感じます」
ブフーッ!と飲みかけたお茶を噴き出す。
ミレーユの言動に耐えるかのように渋面を作っていたルドヴィックの眉間にますます深い皺が寄る。
「ミレーユ! 大丈夫ですか!?」
「ミレーユ様、さあ、これでお拭きください」
それまで手帳になにやら書き綴っていたアンジェリカもさすがにそれを置いて駆けつける。
咳き込んでいる間に吹き零れたお茶をアンジェリカが拭き、リヒャルトはミレーユの背中をさすりながら自分の手巾で口元を拭いた。
「火傷は!? してませんんね?」
「だ、大丈夫…」
リヒャルトの恥ずかしい台詞には耐性がついてきたはずだったが、さっきのは不意打ちだった。
どうせなら皆のいる前ではなく、二人きりのときに言って欲しい台詞だが、彼の言葉は二人きりのときだとなおのこと心臓に悪いことがある。
「よかった。いきなりお茶を噴き出すからびっくりしました」
ミレーユが落ち着くとリヒャルトは安堵したように背中を椅子に預ける。手にはミレーユお手製のクッキーを持ったままだ。
「だ、だって、あなたが変なこと言うんだもの」
「変…て、何かおかしなことを言いましたか?」
「あ、あたしの愛を感じるって…」
「はい、感じます。俺のことを思って一生懸命作ってくれたんですよね。違うんですか?」
頬にかかった髪をそっと払った指先がそのままゆっくりと頬を撫でて包み込んだ。
少しだけひんやりとしているが、それはもしかしたら自分の頬が熱くなりすぎているだけかもしれない。
「ううん、違わない…」
昼下がりの心地よい風が目の前の栗色の髪を優しく揺らす。
(リヒャルトの髪ってツヤツヤしてて綺麗…)
サラサラした栗色の髪は触ってみたらどんな感じがするだろうか。
ぼんやりと見つめていると少しずつリヒャルトの顔が近づいてくる。
(あ、あれ?)
こういう状況が起きる経験を重ねているためか、次に何が起こるのか察しがついて慌ててリヒャルトを止める。
さすがに皆の目の前でするのは恥ずかしい。
「リヒャ、じゃなくて大公殿下! クッキーをもう一つ食べてみて!」
「え、ああ、そうですね」
リヒャルトもこの場に二人きりではないと気づいたのか体勢を元に戻す。
「それじゃもう一つだけ」
そう言ってもう一つクッキーを食べたリヒャルトは包みの口を閉じた。
「もう食べたくない? …やっぱりおいしくなかった?」
「とんでもない。本当においしかったですよ。これはまた後で食べたいと思います。あなたが俺のために初めて作ってくれたクッキーだから大事に食べたいんです」
「大げさよ、それくらいのことで……それくらいだったらいつでも作るわよ? そうだわ、もっと勉強して元気が出るものをたくさん作るから!」
「ありがとう。楽しみにしてます」
リヒャルトが嬉しそうに笑うので、ミレーユは俄然張り切った。
「じゃあこっちに戻りましょう」
はい、とリヒャルトが菓子をつまんで差し出すので条件反射で口に入れると、彼の指先が唇に触れてドキリとする。
「ああ、やっぱりこの時期のチョコレートはいけなかったな」
ひとりごちるように呟いたリヒャルトは唇に触れた指先をペロリと舐めた。
「なっ、ななな、何してるのっ!?」
「何って指についたチョコレートを舐めただけですが……」
動揺したミレーユを不思議そうに見たリヒャルトはもう一度手を延ばしてくる。
「え、何?」
「唇にもついてしまいましたね」
親指でそっと唇をなぞられ、頬が熱くなった。
「…舐めとったほうがいいですか?」
なぜか熱っぽい目で見つめられ、心臓が大きな音をたてはじめる。
「え、い、いいわ! これくらい自分でやるから!」
「妃殿下! そのような貴婦人にあるまじき行動はお控えくださいと何度申し上げたらわかるのですか! こちらをどうぞお使いください」
青筋をたてて近寄ってきた侍従長は真っ白な手巾を差し出した。
「す、すみません…。ありがとうございます」
ミレーユは肩を縮こまらせながらありがたく手巾を受け取ろうとした。
が、その手を大きな手に抑えられる。
「乱暴に拭いたりしないでください。あなたの可愛い唇が荒れてしまいます」
リヒャルトはルドヴィックから手巾を受け取るとそっとミレーユの唇にあてた。
「あ、ありがとう、リヒャルト」
「……」
「リヒャルト?」
「こんなところでお茶会なんてするんじゃなかったな」
「え?」
「部屋の中で、二人きりなら……できるのに」
囁くように言われて、なんのことかとミレーユは瞬きしたが、ゆっくりとその言葉の意味を理解して熱の引いた頬が再び熱くなった。
「何言ってるのよ!?」
「それはいいですわ! 頑張ってくださいませ、若君! 私は影から見守らせていただきますわ!」
興奮したように手帳に書き込み続けているアンジェリカのさらに後方では、第五師団団長が副長から小瓶を受け取りながら悶絶していた。