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管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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これも発掘してきたもの。
というか、おそらくなのですが、約6年くらい前に同人誌で発行したものです。
イベント販売オンリーだったはず?
あれ、通販したんだっけ?(汗)
最初で最後の孫本だったな。うん。
とにかく6年以上前に書いたものには違いない。
最終更新日を見たら、2005年だったもん(汗)

うわー、私ってばそのころから孫かよ。
うん、まあ、1巻が出たころからのファンだからね。年季は入ってるよ。

なんにしても正真正銘の、私が書いた初の孫二次創作SSであることには違いないです。

というわけで続きからどうぞ~。

うぅ、腰が痛いので、もう寝ます。椅子に座ってられない。

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【初空】



「うー、春とはいえ、冷えるねぇ」
「冷えるねぇと言いつつ、俺を襟巻きにするのはやめろーっ!」
「だって、もっくん温かいし」
 首もとが温かいだけでもずいぶんと違うんだよ、と昌浩は言った。
 物の怪も文句を言う割には昌浩の首周りから動く様子は見せない。
 なんだかんだと言いつつも、昌浩にはつい甘くなってしまうのだ。
 目の前に目当ての築地塀が見えてきて、昌浩は頬を緩ませる。
「ようやく、迎えに行けるね」
 思ったことがすぐ顔に出る昌浩だ。嬉しくて嬉しくて仕方ないという表情に物の怪は苦笑する。
「よかったねぇ、晴明の孫や」
「孫言うなーっ!」


 昌浩と物の怪がやってきたのは、年末から年始にかけて彰子が緊急避難していたとある貴族の邸だった。
 もう誰も住んでいないそこは絶好の隠れ場所だったのだが、年始にちょっとした事件とも言えない騒動が起きた。
 だが、それも彰子の要望と昌浩の頑張りで、良い方向に解決した。
 それから数日間、何事もなく過ぎて、年始の宮中行事も落ち着いてきたところでようやく祖父から彰子を迎えに行くようにと命令されたのだ。
 といっても、二人がやってきた時刻は出仕前の早朝だ。この時間では車之輔が動くと人目についてしまう。彰子が移動するのは夜中になるだろうが、一応移動の準備を促すために連絡係としてやってきたのだ。
 かさかさと音をたてて草をかきわけて進むと、さびれた母屋が見えてくる。沓を脱いで簀子に上がって妻戸を叩いた。
「昌浩?」
 すっかり慣れてしまったかのように、中にいる人物は昌浩の名を呼んだ。
「うん、俺」
 自分だと言い当ててくれた嬉しさと、いくら玄武の結界に守られているとはいえ、簡単に返事をされると困るなぁという気持ちがないまぜになった表情のまま、妻戸を開けた。
 早朝だというのに、彰子はすでに起きていて、すっかり身支度を整えていた。そうでなくては昌浩たちを中へ入れてはくれなかっただろうが。
「おはよう、昌浩」
 燈台の近くにいた彰子はにっこりと笑って、昌浩が座るための場所を開ける。そこへ物の怪が円座を持ってきたので、遠慮なく腰を下ろす。
 昌浩が視線を動かすと、彰子の護衛についている十二神将の玄武と天一は、顕現して壁際に座っている。
「おはよう。相変わらず早いな」
 初めて安倍の邸にやってきたときからそうだった。
 毎朝といっていいほど彰子に起こされていた昌浩は感心する。
「昌浩や、お前が遅すぎるんだ。それに、彰子が起きてなかったら、玄武も天一も入れてくれないと思うぞ」
 物の怪は確認するようにちらりと同胞二人を見る。
「無論だ」
 天一は同意を示すように黙って微笑みを浮かべ、玄武はこっくりと頷く。
「そんなこと俺だってわかってるよ。ただ、彰子は毎朝ちゃんと一人で起きてるからえらいなって思っただけじゃないか」
 当代一の大貴族の姫だった彼女は、安倍家に引き取られるまでは早起きなんてしていなかったはずだ。
 それを考えると彰子はちゃんと努力をしていると思う。
 毎朝起こされている自分とは違って。
「そうだなぁ。お前ときたらなかなか起きないもんな。ここのところ起こすのが大変だったぞ」
 彰子が起こしにくると、ほぼ確実に飛び起きるのだが、物の怪相手だと起き上がれないのだ。
「仕方ないじゃないか。忙しくて帰るのも遅かったんだから」
 昌浩は陰陽寮の直丁なので、宮中行事の準備に駆けずり回っていた。なにしろ年始の行事は次から次へとやってくる。雑用はすべて昌浩の仕事だ。
 先日の事件以来、何事もなく仕事に勤しんでいた昌浩は帰ってくると夕餉もそこそこに茵に横になっていた。
「ま、ようやく落ち着いてきたことだし、彰子が戻ってくれば昌浩もまた早起きできるようになるぞ」
 よかったなぁと物の怪は二本足で立って、昌浩の肩をぽくぽくと叩いた。
 その物の怪の言葉を聞いた彰子はえっと声をあげた。
「それじゃ、私…」
「うん、うちもようやく落ち着いたから、今日こそ帰れるよ」
 昌浩は微笑みを浮かべて彰子を見た。
 今朝、祖父晴明に命令されたのだ。
 ようやく客も来なくなった。七草粥は一緒にいただくのだから、お前、今晩彰子様を迎えに行って来いと。
「ただ、いますぐってわけにはいかないんだ。移動するのは人目につきにくい夜になると思う。車之輔を迎えに来させるから、それまでに移動できるように準備をしておいて」
「ええ、わかったわ。でも…」
「ん?」
 彰子はちょっとだけ上目遣いに昌浩を見た。
 その仕草に昌浩の胸がどきりと高鳴る。
「迎えに来るのは車之輔だけ?」
 護衛に玄武と天一がいるのはわかっている。だけれど…
 その言葉に昌浩は破顔する。
「いや、俺が車之輔に乗って来るってことだよ。もちろん、もっくんも」
「おい、俺もか」
 などと声はあげるものの、物の怪はちゃんと昌浩にくっついてくるだろうことはわかっている。
 物の怪が昌浩のそばから離れることなどないのだから。
 そんな物の怪は外を窺うように目をやると、昌浩を仰ぎ見た。
「昌浩、そろそろ出たほうがいいんじゃないのか」
「そうだった。父上には許可をもらってるけど、遅くなるのもいけないよな」
 昌浩は立ち上がって妻戸に手をかけた。
 そこへ天井から能天気な声がかかる。
「おーい、孫ー」
「孫言うなっ!」
 反射的に怒鳴りつけて天井を仰ぐ。
 見れば雑鬼たちがへばりついている。
 静かだとは思っていたが、どうやらずっとそこにいて沈黙していただけのようだ。
「なあなあ、餅はー?」
「そうだそうだ。餅はどうしたんだ?」
「俺たち待ってたのにー」
 静かにしていたのは、お礼の餅がもらえるかもしれないからと行儀よく待つつもりだったからだ。
「あー、わかってるわかってる。今晩には持ってくるから、それまでは大人しくしてろよ」
 お礼の餅なら母露樹に早くから頼んである。
 ただ、彰子が無事に帰るまでは渡すつもりはないのだ。
 いくら気のいい妖たちだと言っても、最後の最後まで悪戯をしないとは言い切れない。あくまでも餅は成功報酬なのだ。
「本当だな!?」
「わーい、餅だー」
「待ってるからな!孫!」
「だから孫言うなーっ!」
 もう一度怒鳴りつけてから、深呼吸して息を整えると彰子に向き直る。
「それじゃ、夜に迎えにくるから」
「ええ、待ってるわ。いってらっしゃい」
「いってきます」
 
 手を振って昌浩を見送った彰子は、そっと目を細めてその背中を見る。
 一歳年上の男の子。まだまだ逞しいとは言えないが、昨年初めて出会ったころよりも背が伸びている。自分も伸びているとは思うのだが、昌浩のほうが成長の速度は速いようで、少しずつ目線が離れていっているのは気のせいではない。
 きっと昌浩は気がついていないだろうけど。
 それに、直衣と烏帽子を身につけているからだろうか。少しだけ大人びて見える。
 家にいると、いつも髷を梳いて首の後ろで括っているので、狩衣を着ているとしても童姿と大差ないように見える。
 そのうち成長すると、吉昌や晴明のように烏帽子と直衣が似合うようになるのだろうか。
 昌浩と吉昌は親子ではあるが、あまり似ていない。昌浩は若くして亡くなった晴明の妻の若菜、つまり昌浩にとっては祖母にあたる人によく似ているという。晴明がそう言ったことはないが、十二神将たちが言うのだから間違いなく昌浩は祖母似なのだろう。
 どちらかというと大きな目をしているし、優しく可愛らしい顔立ちをしているのは祖母の血の影響なのかもしれない。
 でも、それを本人に言うとどんな顔をするだろうか。もしかすると拗ねてしまうだろうか。
 思わず想像してしまって、くすりと笑う。
「姫、どうかしたのか」
 笑い声を聞きつけたのか、玄武が訝しそうに声をかける。
「いいえ、なんでもないの」
「姫、中へお入りください。お風邪を召してしまわれてはいけませんから」
 天一が手を差し出して優しく彰子を誘う。
「ええ。それと昌浩が言ったように移動する準備をしておきましょう」
「はい」
 天一と玄武は頷く。
「なんだ、お姫帰っちゃうのかー」
「もっといればいいのになー」
「そうだぞ。ここは楽しいぞ」
 天井から雑鬼たちが名残惜しげに言う。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私が帰るところは…」
 彰子は言葉を一旦切ると、深呼吸した。
「安倍のお邸だもの」
 あの優しい人たちがいるところへ帰るのだ。穏やかで暖かい心根の人たちがきっと待ってくれていると信じている。

 酉の刻を過ぎた頃、宵闇に乗じて、昌浩は車之輔に乗って彰子を迎えにきた。
 妻戸を叩いて中を窺う。
「彰子、迎えにきたよ」
「昌浩」
 妻戸が開いて彰子が姿を見せた。
「すぐに出られる?」
「ええ」
 中を見れば、持って帰らなければならないものはきちんとまとめてある。
「それじゃ、この荷物を車之輔に乗せて…」
「おーい、孫ー」
「孫言うな!って言ってるだろうが!………なんだよ」
 天井を仰ぎ見ると雑鬼たちがへばりついている。周囲を窺うとこの屋敷に住んでいる雑鬼たちが集まってきているようだ。
「昌浩ー、これ忘れてるぞ、これ」
 物の怪がすすきを分けて近づいてくる。よたよたと二足歩行で歩き、両手に包みを持っている。その背後には、顕現した六合がさらに大きな包みを片手に下げていた。
「あ、忘れてた」
「餅だーっ!」
 雑鬼たちはあちこちからわらわらと姿を現して、広げられた包みに群がる。
「おーおー、そんなに珍しいかねぇ」
 物の怪は餅に群がる雑鬼たちを遠巻きに見ながら昌浩たちに近づいてくる。六合は包みを置くとさっさと隠形してしまう。
「それにしても昌浩。いくら早く彰子を連れて帰りたかったとはいえ、世話になった奴らに礼をするのを忘れるのは人としてどうかと思うぞ」
「わかってるよ!ちゃんと礼はするつもりだったけど…その」
 だんだんと声が小さくなる。物の怪の言うことは図星だったので、言い訳のしようがない。
 少しでも早く彰子を安倍邸に連れて帰りたかった。
 だが、やはりいくら妖とはいえ、世話になった彼らに礼をしないのは陰陽師の名がすたる。
「みんな、彰子が世話になった。ありがとう」
 きちんと頭を下げる。このあたりは晴明の教えが行き届いている。
「おう、こっちこそ、餅ありがとうなー」
「また機会があったら、世話してやってもいいぞ」
「お姫ー、また来いよ」
 誘いをかけられ、彰子は困ったような笑みを浮かべる。
「だめだ。もう二度と彰子は来させない」
 厳しい顔つきになった昌浩を彰子は見上げた。
「なんだよー、けちー、けちー」
「誰がけちだ!…そうじゃなくて、彰子を一人にさせるようなことはしないってこと」
 決意を込めたような表情に、彰子は嬉しそうに目を細めた。
「おおー、そうだよなー」
「妻を一人きりにするのはよくないぞ」
「大丈夫だろー?来年あたりは三日夜の餅を食ってるかもしれないからなっ」
「そうだなっ。そしたら、また餅が食えるかもしれないぞ」
「がんばれよ、孫っ!」
「わーっ!わーっ!わーっ!」
 昌浩はバタバタと手を振った。
 言うに事欠いて何を言い出すのだ。この雑鬼たちは。
 まだそんなこと早すぎるし!
「あああ、彰子さんっ!こいつらからかってるだけだから!俺たちの反応を見て面白がってるだけだから、本気にしちゃだめだ!」
「え、ええ」
 頷きつつも、彰子の顔は真っ赤になっている。暗視の術をかけている昌浩の顔も真っ赤になっているのだが、自分が焦っているために彰子の様子に気がついていない。お互いの表情がわかっていたら、もっと面白いことになっていただろうかと、二人を足元から見上げていた物の怪は思った。
 ふと気づけば、護衛についてきた六合は少し離れたところで背を向けて肩を震わせている。またもや珍しいものを見てしまったと物の怪は目を丸くした。
 そこへ母屋から荷物を持ってきた玄武と天一が姿を見せた。
「何をしているのだ。外で騒いでいたら、他の人間たちに気づかれるではないか」
 外での騒ぎは聞こえていなかったのだろう。大人びた表情で眉をよせる玄武に、そうでしたと頷く。
「さあ早く帰ろう。うちへ」
「ええ」
 昌浩は彰子に手を差し伸べる。
 彰子は頷いて昌浩の手をしっかりと握った。

 うちへ―

 昌浩の言葉がとても嬉しかった。



「え、天一と玄武は一緒じゃないの?」
「私たちは先に帰っております」
「我らまで一緒にその妖車には乗れまい」
 確かに、と昌浩は頷いた。
 車之輔の中は狭い。
 妖ということもあって、もともと人が多く乗れるような広さは必要ないからだ。
 これが大貴族ともなれば、大きな車でも用意できるのだろうが。
 大人二人乗ればかなり手狭になるので、昌浩と彰子が乗ると一番小柄な玄武がかろうじて乗れる程度だろうか。
 護衛についている六合は車之輔の屋形を常駐場所にしているので問題はない。
「そうよね。みんなで乗れば楽しいと思ったんだけど」
 彰子は残念そうに言った。
 たとえ安倍の邸に帰るだけとはいっても、ちょっとした散歩になる。
 昌浩の式であるというこの妖車はとても好意的で、丁寧に運んでくれるので安心して乗ることが出来る。
 物の怪に言わせると、ものすごい速さで走ることもあって、そんなときはすこぶる乗り心地が悪いらしいが。
「まあ、また今度機会があったときにでも」
 昌浩は彰子を先に乗せて、神将二人を振り返った。
「それでは」
 天一と玄武が隠形すると、そのまま気配が遠ざかって行く。このまま先に安倍邸まで戻るのだろう。
 晴明には先に報告してくれるはずだ。
 昌浩と彰子が乗り込み、腰を落ち着けると、車之輔はゆっくりと動き出した。
 今日は切羽詰っている状態でもなく、彰子が乗っているということもあって、ことさら丁寧に運んでいるような気がする。
 だからこそ、のんびりと会話を楽しむことにした。
「彰子は何をしていた?」
「あのね、昌浩から貸してもらった巻物や本を読んだり、玄武と囲碁を打ったりしてたわ。それとみんなに京の昔話とか聞いたの。すごく面白かったわ。今度昌浩も聞いてみるといいわよ」
 みんなというのは、あの邸にいた雑鬼たちのことだろう。すっかり友好的な関係を築き上げているようで、それはそれで喜ばしいことでもあるような気もする。
 こんな話があったのだと聞かせる彰子の様子に、物の怪は感心する。雑鬼たちの話には、かなり恐ろしい話もあったりするのだが、全く恐れていた様子を見せない。面白がって聞いていたのだとすれば雑鬼たちもはりきって聞かせたに違いない。
「大昔のことを知ってるからなぁ。面白かっただろうな」
 話がはずんでいたところで昌浩はふと気づいた。
 いつまでたっても安倍邸に近づいている様子がない。
「車之輔、どうしたんだ?何かあったのか?」
 外を窺うように声をかける。車の中から外を見てみるのだが、一体どこを走っているのか見当もつかない。
「どうしたの?」
 彰子が首を傾げて昌浩を見る。
 不安そうに狩衣の袂を握ってきた。昌浩の式でもある車之輔に乗っているのだからと、すっかり安心しきっていたのだ。
「んー?なんだ。そうか」
 車之輔の言葉がわかる物の怪はフンフンと頷いた。
「ほんの少しだけ遠回りだそうだ」
 せっかく楽しそうに話をしているのだから、早く安倍邸に着いたのではもったいない。
 主のことを思いやっての車之輔の行動に物の怪は「本当にいい奴だなぁ」としみじみと感心した。
「なんだ。それだけか」
 昌浩が緊張を解くと、彰子も安心したように袂から手を離した。
「今、三条のあたりだそうだから、もうすぐ着くぞ」
「うん、わかった」
 それからほどなくして安倍邸の門前に到着した。
 昌浩と彰子は車之輔から降りると、二人で妖車に礼を言う。
「ありがとう。車之輔」
「お疲れさま。ゆっくり休んでね」
 すると車之輔の言葉を物の怪が通訳する。
「いいえ、式としてご主人様のお役に立つのは当然のことです。だとさ」
 それではというように軛をガックンと下げると、戻り橋の下に下りていった。今夜はもう休むつもりなのだろう。

「晴明様や、吉昌様たちにご報告してくるわね」
 彰子が帰ってくるのはわかっていることだから、皆起きて待っていることだろう。
 いそいそと簀子を歩いていく彰子を見送って、昌浩は自室に戻った。
 妻戸を開けようとしていたところで、物の怪が先に気づく。
「おい、昌浩」
「え?」
 ふと顔をあげると白い鳥が飛んでくる。こんな夜更けに本物の鳥が飛んでいるわけがないので、晴明の式文だ。
「げっ」
 昌浩のもとまで飛んでくると、ヒラヒラと白い一枚の料紙に変わる。
 
 なんだ、一体。
 今日は何も起きてないぞ!?
 それとも何かしたのか、俺!?

 そう思いつつ料紙に書かれている文字を読む。
「…くっ…」
 昌浩は料紙をぐしゃぐしゃに丸めると床に叩きつけた。
「なんだ?」
 部屋に入ってしまった昌浩を見やってから、物の怪は足元に転がっている丸められた料紙を拾い上げた。

『自分の式に気を遣われて、夜の散歩とは情けない。それくらい自分で考えて行動せんとなぁ。女性を楽しませるのが大人の男というものだ。人としても要修行。ばーい晴明』

「…これはまた」
 物の怪は苦笑する。

 天一と玄武が先に戻ってきていたので、帰りが遅くなっていることを心配していたのかもしれない。
 ただ、車之輔が二人のためにと気を遣った結果で大事にはならなかったので、怒られることはなかったのだろうが…
 もしかすると、昌浩が自分から行動を起こすことを期待してたのかもしれない。いや、十中八九間違いない。
 いまごろ晴明は「やれやれ、世話がかかるのう」と、のんびりと亀のように進んでいる二人の仲を微笑ましく思っているのだろう。
 部屋の中を窺うと、すでに茵に横になっていて、袿にくるまっている。
「昌浩、寝たのか?」
「う~…」
 袿の中でもごもごと何か言っている。

 おそらく。

「あんの、くっそじじい~っ!」

 と言っているに違いない。


                     《完》

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「うつつの夢に鎮めの歌を」を読んでから書いたものですので、相当古いな(汗)

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