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管理人の日々徒然&ジャンルごった煮二次創作SSアリ
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岬あづに続けて松美SSです。

これは、新作といっていいのか(苦笑)
途中までは10年前に書いてたものなんです。
確か最終更新日が2006年7月くらいになってた。
そこから続きを書いたのですが、終わり方がなんとも尻切れトンボみたいになってるんですけど。

メインは松美なんですが、おまけでツバサナがくっついてます。
中二のころの話です。
おまけにものすごく長いです。ダラダラと話が続いてますのですみません。
相変わらずタイトルないし。




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「ごめん…」
 
 ああ、なんてタイミングなのだろう。
 校舎の陰に隠れていた美子はそっとため息をついた。
 
 
「え、また見ちゃったの?」
 町子がメガネの奥の目を丸くした。
「うん」
 美子は頷く。
 放課後、サッカー部の練習中にユニフォームの洗濯をしていたマネージャー二人はたわいのない雑談をしていたのだが、町子が「そういえば松山くん、また告白されたらしいわよ」と言うと、美子が「うん、知ってる。見ちゃったもの」と返したのだ。
 
「あんたって間が悪いわねぇ…」
 町子はなんといっていいものか、と困ったような呆れたような表情をしていた。
「ホントね…」
 美子は自分でもそう思った。
 二年生に進級してから二ヶ月。
 松山が女の子に告白されている現場を見たのはこれで三回目だ。
 二度あることは三度あるとはいうが、いくらなんでもこの確率の高さはひどすぎる。
 神様というものがいるのなら、あんまりな仕打ちではないかと思ってしまうのだ。
 それとも臆病で告白できない自分に対する罰なのかとか、どんどん被害妄想が広がっていく。
「すっかり人気者になっちゃったわね。松山くんは」
「うん」
「サッカー部ではすでにレギュラーポジションとってるどころか、全国大会に行けたのは松山くんのおかげだって言われてるくらいだし、面倒見いいし、優しいし、おまけに見た目もいいものね」
「そうね」
「女の子が騒ぐ理由は大有りね」
 だが、当の本人は周りでいくら騒がれようともどこ吹く風だ。
 よくいえばマイペース。悪くいえばとことん鈍いということなのだろう。
「でも、松山くんはサッカーに夢中だから、他のことに目を向ける余裕なんてないんじゃないかしら」
「うん…美子の言うとおりなんだろうけど…ねぇ美子」
「ん?」
「あんまり気にしちゃだめよ?」
「うん、わかってる」
 
 大丈夫。
 いまはまだ大丈夫。
 松山はサッカー一筋で、女の子と付き合いたいとか、そんなこと微塵も考えていないだろう。
 でもいつかは……
 いつか、自分の気持ちを伝えることができるだろうか。
 たとえ想いが報われないとしても、自分の気持ちを知ってもらいたいと思えるようになるまではまだ時間がほしい。
 
「マネージャー!」
「えっ」
 呼ばれたマネージャー二人が振り返ると、噂の人物が走ってくる。
「どうしたの、松山くん」
「休憩時間が早まったんだ。悪いけど、タオル出してくれないか?」
「ああ、はいはい。美子、ここは私にまかせて、タオルをお願いね」
「え?ええ」
「松山くん、頼んだわよ」
「ああ」
 え?と美子は親友を振り返った。町子が美子に頼むと言った理由をようやく悟る。
「おい、藤沢、行くぞ」
「あ、はい」
 美子は慌てて松山の後を追った。
 部室に行ってテーブルの上に用意された人数分のタオルを手分けして持つ。
「六月ともなると、やっぱり暑いよな」
「そうね」
「『北海道は涼しそうでいいな』って言われたことあるけど、ずっとここに住んでるおれたちにとっては普通の暑さだよなぁ」
「ええ。でも、もっと南に住んでる人たちがここにくればきっと涼しいって感じるんでしょうね」
「そうだな。だから逆におれたちみたいに北海道代表が全国大会に行くと、勝ち進んでいくのは難しいのかもな」
「そうかもしれないけど……」
「けど?」
 松山は隣を歩く美子を見下ろした。
 そういえば藤沢はずいぶんと小さいなと思ったのだが、それは単に松山の背が伸びただけのことだ。
「その条件の厳しさを克服して勝ち進んでいけばいくほど喜びも増すんじゃないかしら」
 美子の言葉に松山は目を瞬かせた。
「…おまえ、いいこと言うなぁ」
「え?」
 美子は松山を見上げた。
「うん、それっていいよな。その言葉、覚えておく」
 休憩している部員たちのところまで行くと、二人で手分けしてタオルを配る。
「松山先輩、おれが代わります」
 気づいた一年生部員が立ち上がるのだが、松山は手で制す。
「いいって。タオル配るだけだろ。それに、おまえらのほうがへばっちまってるじゃないか。ちゃんと休んでおかないと、このあとの練習についてこれないぜ」
 松山は汗はかいているものの、疲れている様子はまったく見えない。鍛え方が違うというのが歴然としてみえた。
 
 
 
「そういえば、松山。おまえ、告白されたんだって?」
 部活終了後、部室で着替えていると三年の先輩に声をかけられた。
 周りで聞いていた部員たちは口笛を吹いたり、冷やかしの声をかける。
「な、なんで知ってるんですか?」
「小田に聞いた」
 松山はぐるりと勢いよく振り返ると、小学生のときから一緒にいる友人に詰め寄った。
「小田!よけいなこと言いふらすなよな!」
「ご、ごめんって!でも、別に言いふらしたわけじゃなくて、『松山はどこに行った』って先輩がいうから、仕方なく……。誤魔化そうとはしたんだよ!」
「……………本当だろうな?」
「本当だって!」
 過ぎたものは仕方がない。
 松山は小田を一睨みしてから向き直った。
 背後で盛大なため息が聞こえる。
 だが、そんなことは知ったことではない。
 向き直った松山は、興味津津といった表情で自分を見つめている部員たちの視線に思わず身を引いた。
 一体、なんだ?
「で?」
「で?って?」
 何を問われているのかわからなくて眉根を寄せると、「鈍いな!」と言われた。
「なんて言われたんだよ?『好きです。つきあってください!』って言われたのか?」
「……それに近いようなことは……」
「それでオッケーしたのか?」
「するわけないでしょう!」
 もう勘弁してくれと言いそうになった。こういう話は苦手なのだ。あまり突っ込んで聞かないでほしい。
「なんだ。もったいねぇな」
 拍子抜けしたような顔をする部員たちに何を期待していたんだと思わずにはいられない。
「……その、第一、相手のこともよく知らないし、好きでもないのにつきあえるわけないでしょう」
「松山……」
 近くにいた三年が肩を叩く。
「おまえ、ホントに真面目だなぁ。そんでもっていいヤツだなぁ」
「はぁ」
「ところで」
「?」
「聞いたことなかったけど、おまえって好きな子いるのか?」
「え?」
 ポカン、と口を開けた松山に部員たちが詰め寄る。
「そうそう、おまえだけこういう話にのってこないんだもんな。いくらなんでも好きな子くらいいるだろ?」
「おれらクラスの女子に訊かれるんだよ。『松山くんって付き合ってる子いないの? 好みのタイプってどんな子?』ってさ。松山はおまえらより年下だっつーの!」
「松山のこと紹介しろって子もいるんだよ。そのあたりは腹立つから断ってんだけど、好きな子いるなら教えろよ~」
「いませんよ」
「そっか、いないのか……って、マジで!?」
 あっさりと答えを返した松山の言葉に納得しそうになり、目を剥いた。
「い……いなかったらおかしいですか?」
「いや……別にいいけどさ……」
 松山が大真面目に問い返すので、逆に困ってしまう。
「まさか、どこかの漫画のような『サッカーが恋人』なんてアホなこと言うんじゃないだろうな?」
「そこまでは言わないですよ。ただ、いまは興味ないっていうか……」
 松山は自分のロッカーを開けて、練習着を脱いだ。ハンガーにかけてあるシャツを取り出す。
「じゃあさじゃあさ、こういう子が好きだなーとか、理想のタイプってのは?」
「理想のタイプ……?」
 こういった恋愛話は苦手だ。どうして誰も彼もが聞きたがるのだろうか。松山にはそれが不思議に思えてならない。
 だが、別に実際に好きな子を問いただされているわけでもないからいいかと思った。
 こういう子だったら付き合ってもいいと思えるような子なんているとは思わないけれど。
「そうだな……真面目でおしとやかで、思いやりがあって……顔は……可愛いことにこしたことはないかな……」
「なんだ。意外と普通……」
「あ、あと、サッカーを好きだってことは第一条件で、おれがサッカー優先しても文句言わない子」
「……」
「……」
「……」
 松山を除く部員たちは視線を交し合ってため息をついた。
 結局はサッカーから離れられないのかと。というか、どこまでサッカーバカなんだ。
 
 そんな中、付き合いの長い同学年のメンバーは「もしかして……」と思いついたことがあった。
 その帰り道。
「なあ、松山。さっきのアレってさ、冗談?それともマジ?」
「え、なんの話だ?」
「察しが悪いなぁ。さっきの好みのタイプの話だよ!」
 松山の頬が赤くなる。
「いいかげんにしろよ。おれがそういうの苦手だって知ってるだろ!」
 さっきは三年生の手前もあって大人しくしていたが、同級生たちだけになると強気になる。
「だって、なぁ?」
「ああ」
「?」
 松山は眉根を寄せた。一体、こいつらは何を言いたいのだろうか。
「おまえ、わかって言ってるのかな~と思ったからさ」
「何をわかってるって?」
「うわ、わかってないよ。この人」
「そうだろうとは思ったけどさ~」
「だから何が」
 松山はイライラしはじめた。
 何故、自分のことで周りの人間のほうがわかったような会話をしているのか。
「松山ってさ、さっきの好みのタイプって誰かを想像しなかった?」
「誰かって……誰を?」
 キョトンとした顔で聞き返してくる松山に、同級生たちは白旗をあげた。
 気づいてない。全然気づいてない。
 そういう子がすぐ近くにいるではないか!
 てっきり、『彼女』のことでも思い浮かべてそう言ったのかと思っていたのに、違うのだろうか。
「なぁ、一体何なんだよ?」
 松山は同級生たちを問い詰めたが、誰も彼が納得できるような答えを返してはくれなかった。
 
 
 
 七月。
 ふらの中学は北海道予選を突破し、全国大会出場を決めた。
「あっ、松山くんよ!」
「カッコいい~っ」
 北海道では短い夏休みとはいえ、他の部活も練習があるので登校している生徒は多い。
 中でも松山に対する女子生徒たちの注目度はさらにあがっていた。
 全国大会に出場したサッカー部のレギュラーで、しかも二年生。とびきりの美少年とまではいかないが、二枚目の範疇に入る容姿でもあり、自然と人気が高まるのだ。
 自分の部活もあるだろうに、差し入れを持ってくる女子が毎日絶えない。
 それを受け取るのは当の本人ではなく、マネージャーたちだった。
「羨ましいこと」
 はい、と町子に本日分の差し入れを手渡された松山は困惑した顔で受け取った。
「あんまり嬉しくなさそうね」
「いや…うん、困るよな。こういうことされても」
「だったらいらないって言っちゃえば?」
「そんなこと言えるわけねぇだろ。悪いじゃねぇか」
 差し入れしてくれる気持ちはありがたい。しかも、サッカーのことばかり考えているような自分に好意さえ持ってくれているのだと思うと、どうしても悪い、申し訳ないという気持ちが強くなってしまう。
 こんな状況を改めたいとは思ったが、誰からも参考になる話を聞けそうにはなかった。
 
 
 
 
「よぉ、翼」
「松山くん」
 全国大会が始まった。
 大会初日、開会式直後のオープニングゲームを見るために残るチームが多い中、ふらの中サッカー部も競技場に残っていた。
 早めの昼食を食べ終えた後、開始時刻まではまだ時間があったので松山は一人スタジアム内をうろついていたところで、顔見知りに出会ったのだ。
「久しぶり。一年ぶりか」
「そうだね」
 昨年の全国大会では対戦することはなかったが、共通の友人を通して知り合っていた南葛中のエースを見かけたので声をかけたのだ。
「聞いたぜ。MFにポジション移動したって」
「うん」
 背番号「10」のユニフォームを着ている彼を半ば羨ましく思いながら口を開く。
「対戦するのが楽しみだな。……といっても組み合わせを見ると、決勝まで行かないと当たらないみたいだけど」
「そうだったね。……そういえば、まだふらのとは一度も対戦したことなかったね」
「ああ」
 通路の端に二人立って話をしていると、通りすがりの他校のサッカー部員や観客たちがチラチラと見ながら通り過ぎる。
 このスタジアムに来ているくらいなら、サッカーファンであることは間違いない。
 全国的に有名な翼はもちろん、松山のことも知らないというものは少ないだろう。
「あの、大空翼さんですよね!?」
 いきなり声をかけられて、翼と松山はびっくりして声のしたほうを見た。
 見れば自分たちと同じ年くらいの少女が二人、キラキラと目を輝かせて立っている。
「あ、うん、そうだけど…」
「私たち大ファンなんです!サインください!」
「えっ?」
 目の前に差し出された女の子らしいスケジュール帳と少女たちを交互に見た翼は「それじゃ」とサラサラと手馴れた様子で自分の名前を書き込んだ。
 慣れた様子の翼を見て、松山は感心したように目を見開く。
 礼を言って立ち去った少女たちを見送ってから松山はからかうように言った。
「さすがは人気者。サインも慣れた感じだな」
 翼は軽く肩をすくめて苦笑した。
「名前を書くだけだからね」
「その様子だと、学校でも大変だろう?」
 松山はそこまで言ってからふと思いつく。
 顔見知りよりは多少は親しいと思うが、友達とまでは言えない相手に聞いてもいいものかどうかと考えはしたのだが、このまま聞かないよりはマシだと思って思い切って尋ねることにした。
「翼、ちょっと聞いていいか?」
「え、何?」
 
 
 
「松山はどこに行った?」
「マネージャー、どこに行ったか知らないか?」
「そういえば、腹ごなしにちょっと歩いてくるって行ってスタンドのほうに行ったと思いますけど」
 監督に聞かれた美子はそう答える。
「藤沢、悪いが呼んできてくれ。ミーティングするのにレギュラーがいないんじゃ、話にならんからな」
「はい。わかりました」
 美子はスタジアムの入り口から観客席に向かう。
 探して来いとは言われたが、スタジアムは広い。松山はいったいどこにいるのだろうか。移動していると見つけにくい。そう思っていたのだが、すぐに彼を見つけることができた。
 見れば松山は他校の選手と一緒にいた。よく見ると美子でさえよく知っているチームのユニフォームを着ていた。
 壁に二人並んでよりかかって話しているその様子は仲良さそうに見えた。
「お互い、サッカーじゃないことで苦労してるみたいだね」
「そうだな」
 そんな話し声が聞こえてきた―――
 
 
「悪かったな、翼。妙なこと聞いちまって」
「いや、いいよ。おれの話じゃ参考にもならないだろうけど」
 人の好さそうな明るい笑顔を浮かべた翼に松山は「いや十分だ」と答えた。
「それにしても、お互い、サッカーじゃないことで苦労してるみたいだね」
「そうだな」
 松山は笑った。サッカーの天才と呼ばれる翼も女の子の前では無敵とは言えないらしい。
「翼くん! ここにいたの」
「マネージャー」
 ハリのある元気のよい声に振り返ると、セーラー服を着た少女が立っていた。
 マネージャーと呼ばれた少女、中沢早苗は腰に手をあてて仁王立ちしている。頬を膨らませ、眉を吊り上げていたのだが、松山を見てパッと表情を変えた。
「あら、松山くん」
「よ。久しぶり。元気そうだな」
「ええ、おかげさまで」
 にっこりと笑うと翼に向き直る。
「翼くん、先生が呼んでいるわよ。トイレに行ってくるって言ったきり戻ってこないんだもの。小さな子じゃないんだからフラフラしないでちょうだい」
「ゴ、ゴメン」
「悪い。おれと話してたからだな」
 一方的に叱られているような翼が気の毒になって松山が助け船を出す。
「ううん、松山くんのせいじゃない」
「よ」
「わ」
 と、翼と早苗が声を揃えて言ったので、松山は吹き出す。
「おまえら、相変わらず仲いいな」
「えっ」
 言われた二人は頬を赤らめたが、早苗が松山の後ろを見て「あら」と声をあげた。
「松山くんこそ、お迎えが来たみたいよ」
「えっ?」
 松山が振り返ると、美子が所在なげに立っていた。
「藤沢。声をかけてくれればよかったのに」
「ごめんなさい。でも楽しそうに話してたから…」
 おずおずと近づいて翼と早苗に軽く会釈すると、二人もそれに応じる。
「それじゃ、松山くん。どうせなら決勝戦で会おうよ」
「ああ」
「行こう。マネージャー」
「ええ」
 翼が背を向けて歩き出すと、早苗がその後を追う。だが、早苗は振り返ってから松山と美子を交互に見やってからにっこり笑って小さく頭を下げ、小走りで翼を追っていった。
 二人を見送った松山は美子に声をかけた。
「おれたちも戻るぞ。藤沢」
「はい」
 
「松山くんって、あの大空翼くんと友達だったの?」
「友達ってほど親しくもないけどな」
 その割には楽しそうだったと思うのだが。
「何を話してたの?」
 てっきりこの大会の話とか、サッカーについて話しているのだろうと思ったのだが、翼が見知らぬ少女たちにサインを求められたのだと言った。
「人気者は大変だなって話してたんだよ」
「松山くんだって……」
「ん?」
「松山くんだって、学校で……」
「ハハ、翼と比べたら雲泥の差だろ。あいつの人気の高さは全国区だからな。それに、人気者になりたいからサッカーやってんじゃねえんだし」
「うん……」
「ま、おかげで参考になる話は聞けたけど」
「参考って?」
「大したことじゃねえよ。それより行こうぜ」
「あ、はい」
 そうだった。松山を迎えに来たのだった。
 松山の後ろをついていきながら、美子は先ほどのことを思い返す。
「あの、さっきの……」
「ん?」
 松山が振り返る。
「南葛のマネージャーさんとも知り合いだったの?」
「ああ、あの子は小学生のときは南葛SCの応援団長だったんだよ。その南葛SCにあの翼とおれの友達が同じチームにいてさ、応援してるときにちょっと知り合った程度だったんだけど、まさか中学ではマネージャーになってたとは思わなかったな」
「そうだったの」
「なんていうか……元気よくて、男勝りっていうか……そんなだからおれも話しやすくさ。翼とよく一緒にいるもんだから、顔見れば挨拶するくらいにはなったんだよ。いい子なんだぜ」
 少し胸が痛んだ。美子は人見知りはしないが積極的な性格ではない。気もそんなに強くもないので、男の子と対等に渡り合えない。
 松山が女の子のことを褒めるなんて聞いたこともなくて、ああいう明るくて元気のよさそうな子のほうがいいのだろうかと思ってしまった。
「それに、可愛かったわよね」
「ん? ん~……? う~ん、まあ、可愛いっちゃ可愛いのか」
 アイドル並とは言わないけれど、目のぱっちりとした美人の部類に入るだろう。
 見た目の良さでも人気の高い翼と並んでも見劣りすることがない程度には。
 それなのに松山の反応は鈍い。
「松山くんの好みじゃないの?」
「は? 何言ってんだ。確かにいい子だとは言ったし、美人だとは思うけど、おれの好みはもっと……って、何言わすんだよっ!」
「ご、ごめんなさい」
 微かに顔を赤くして焦ったような松山に、慌てて謝る。
「いや、謝ることはねえけどさ。あ~、なんでマネージャーにこんなこと話してんだか……」
 松山はブツブツとつぶやくとそれ以上は何も言わずに歩き出した。
 昨年よりもまた伸びた背丈。
 美子の身長はほぼ止まってしまっているが、松山はまだまだ伸びていくのだろう。
 その背中を見ながら先ほどの松山の言葉の続きを考えた。
(松山くんの好みのタイプ……って、どんな子なんだろう?)
 あの南葛のマネージャーのような子ではないらしい。
 気になるけれど、教えてほしいなんて言えないのだった。
 
 
 
 
「あ、翼、やっと戻ってきた!」
「どこ行ってたんだよ、翼」
「ゴメンゴメン」
 南葛中サッカー部の元へ戻った翼と早苗は石崎たちに咎められる。
「松山くんに会ってさ、つい話し込んじゃったんだよ」
「松山ってふらの中の?」
「うん」
 南葛SC出身のメンバーなら松山の実力は十分に知っている。
「松山かぁ、アイツもすっかり全国大会の常連って感じだな」
「松山くんの実力ならちっともおかしくないよ。ふらの中も東邦と同じくらい要注意だ」
「そうだな」
「で、松山とは決勝で会おうとでも言ってたのか?」
「うん。あ、あとファンの子たちからの差し入れとかプレゼントとかはどうしてるかって訊かれたな」
「へ?」
「松山が?」
「うん」
 そこで翼は翼なりのアドバイスをしたのだが、あれでよかったのだろうか。とりあえず、松山には感謝されたが。
「へー……松山もモテんだなあ」
 なんとなく悔しそうな石崎に滝がからかうように言った。
「おいおい自分と比べんなよ」
「んだとぉ!? おれの、おれのファンだってなあ、どこかにいるに決まってらあ!」
「ハイハイ、きっとどこかにいるわよ。世界に一人くらいはね」
「そうねえ、でも、松山くんは男前だもの。彼のファンの何分の一になるかしらね」
 マネージャー二人に軽くいなされ、石崎は情けない顔をする。
 しかしすぐに気持ちを切り替えて翼の肘でつついた。
「おい、いいのか翼ぁ。マネージャーは松山のほうが男前だって言ってるぞ」
「え?」
「ちょっと、石崎くんっ!」
 男前と評した早苗が肩を怒らせる。
「一般論を言ったまででしょ! 翼くんとは比べてないんだから!」
「……だってさ。よかったな、翼!」
「え」
「いくら松山が男前でも、おまえとは比べようがないってさ、マネージャーは」
 ニヤニヤニヤニヤ。
 小学生からの付き合いであるメンバーたちは意味ありげな笑顔で翼と早苗を交互に見る。
 その視線を受けた早苗は翼と目が合うとあからさまに逸らした。
「そ、そういうことを言ってるんじゃないわよ、バカっ!」
 プイッとそっぽを向くと背を向けてズンズンと歩いていった。
「お、おいっ」
「早苗!」
「何をやっとるんだ。おまえたちは」
「先生」
 それまでは楽しげに二年生部員たちのやり取りを見ていた古尾谷や三年生たちは呆れ顔になった。
 このころには翼と早苗の微妙な関係は部員全員が知るところであり、石崎たちが二人をひやかすのをほほえましく見ていたのだが。
「翼、中沢を連れもどしてこい」
「は、はい」
 古尾谷に言われた翼はすぐに早苗の後を追った。
 部員たちの視線の先で、早苗に追いついた翼は二言三言話すとすぐに彼女を伴って戻ってきた。
「すみませんでした」
 早苗は古尾谷や三年生たちにペコリと頭を下げる。
 申し訳なさそうに肩を縮こまらせた。
 そんな早苗を横目で見ながら、石崎は翼に訊ねた。
「翼、なんて言って戻らせたんだよ?」
「え? おれを呼びに来たマネージャーがどこかに行っちゃダメじゃないかって言っただけだよ」
「その通りだけど、翼の言うことはよく聞くよな」
「そうかな。おれもさっき怒られたからおあいこみたいなものだよ」
 早苗は小学生時代に比べれば信じられないほどおしとやかになったが、気の強さは変わっていない。
 翼だって怒られることはある。それでも早苗が怒る原因は自分にあるとわかっているので、気を悪くしたことは一度もないのだが。
「言いたいこと言えないよりはいいか。喧嘩するほど仲がいいっていうしな!」
「それちょっと違うと思うけどなぁ」
 
 
 
 
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