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なんかこう、妄想というか、本編で騙られていない部分を想像したくなる話なんですよね。いろいろと。
おかげで本編補完のようなSSを書きたくなってしまうのですよ。
SSは続きからですが、前のSSのときと同じように原作1巻目を読み終えていないとわからない内容になってます。
後で原作を読んだら、「先に二次創作SSを読むんじゃなかった!」と後悔しますので!
では覚悟してSSを読んでください。
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「それじゃあアネイラ、サミュアのこと頼むぞ」
「はい。まかせておいてください」
「ティーク兄様、私には?」
「もちろん、おまえも頼むぞ、ルルアナ。サミュアはまだ谷に慣れていないんだ。おまえがいろいろと教えてやってくれ」
腹心の部下を頼みとするのはわかるが、自分はと三角耳が下がりかけていたルルアナにも声をかける。
サミュアが谷にやってきたばかりのときは、彼女に対してなんだか怒っていたような妹だったが、いつの間にか仲良くなってしまったらしい。
アネイラとともに獣人(ユフト)の暮らしそのものに慣れていないサミュアの世話をしている。
サミュア自身は自分のことは自分でできるので、世話というよりはユフトの生活や習慣などを教えているというほうが正しいのかもしれない。
この二人がついていてくれれば大丈夫だろうとは思うのだが、これからしばらくムルム族との対話を進めていかなくてはならないので、しょっちゅう谷を空けることになる。
まだ不慣れなサミュアを置いていくのは不安だが、この谷にいることが彼女の身の安全を守ることになるし、彼女はバルテア王国とムルム族の対立を停めるためにラグドファルへ嫁いできた身だ。彼女のためにも早くこの問題を解決しなければならない。
「サミュア、谷にいるかぎり君の身に危険がおよぶことはない。わからないことはアネイラやルルアナに聞いてくれ」
「はい。大丈夫ですわ、ティーク様。ティーク様こそ、お気をつけて行ってきてくださいませ」
柔らかで品のよい喋り方をするバルテアの姫は微笑んでティークを見上げた。
ユフト、否、ティークと比べても小さくて華奢な姫。
だが、芯はとても強い。
そんなサミュアの笑顔に頷いたティークは馬に乗った。
「行ってくる」
短く言うと馬首を返した。
「はい、いってらっしゃいませ」
「早く帰ってきてね、兄様」
軽く手をあげて応えると馬を進めた。
しばらく馬を進めてから振り返ると、サミュアはまだ城門のところにいた。
そばにはルルアナとアネイラがいるが、やはり彼女たちと比べてもサミュアは小さい。
人間の女性としては普通の大きさなのだろうが、ユフトの身体の大きさを基準にしているティークとしては、どうしてもサミュアは頼りなげに見えてしまう。
早く帰ってこなければと考えたティークは、その考えに苦笑した。
主人の様子に気づいたクードがそばを歩きながら首を傾げる。
「ティーク様、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」
もう一度振り返るとまだサミュアは城門にいた。
もしかして、姿が見えなくなるまで見送るつもりだろうか。
「なんとまあ珍しい」
黒い毛のユフトが可笑しそうに笑うので、今度はティークが首を傾げた。
「なんだ、クード?」
「ティーク様が何度も振り返られるなど今まで見たことがありません」
「そう、だったか?」
そう言いつつ、また振り返ってしまう自分の行動に気づいて言葉につまった。
「本当だな」
思わず笑ってしまったティークを見て、クードは目を細めた。
「ご心配なさらずとも、姫君にはアネイラがついております。ましてやここは谷の中、彼女を害するものなどおりません」
「ああ、わかってる」
そう頷きながらもクードに言われて気がついた。
自分がサミュアを心配していたわけではないことに。
もちろん心配する気持ちもあるが、それよりも少しでも長く彼女の姿を見ていたかったのかもしれない。
そう考えて少し動揺した。
一体彼女はどれだけ自分の心を振り回すのかと。
ただ、それが嫌な感じではなくて、心地よいくすぐったさを感じるのだ。
早く帰ろう。
彼女が待っているから。
なぜかそう思ってしまう。
ムルム族との話し合いはこれから幾度となく繰り返されるだろう。もしもそれがまとまったら、今度はバルテアに行かねばならないかもしれない。
そのたびに谷を空けねばならないが、いままでだって同じことをしてきたはずなのに、感じ方が少し違う。
なにがどう違うのかなんて説明はできない。
けれど、サミュアのために早く帰ろうと思っている自分がいる。
けっして気が急いているわけでもないのだけれど。
「行くぞ、クード」
「はい」
城門が見えなくなってからティークは馬を走らせた。
帰ってきたときに出迎えてくれるであろう、あの白金色の輝きを思い浮かべながら。
原作1巻終了直後、2巻が始まる前くらいで。